命を狙われる理由

「いや、待て? どうしてミスト王国の軍人達が自分達の王子のクリスライドを殺すんだ?」


 ピオンの口から聞かされたローゼからの報告にサイは即座に聞き返した。


 ミスト王国から来た軍人達が、暗黒領域での一件の口封じの為にクリスライドを初めとする捕虜を殺害する事は予想していたが、改めて軍人達の狙いがクリスライドの命だと聞かされると困惑を隠しきれなかった。そしてそれはサイだけでなく、「キマイラ」の隊員達も同様であった。


 サイを含めた「キマイラ」の隊員達の動揺を理解しているピオンは一つ頷くと、今ローゼから聞いたミスト王国の軍人達がクリスライドの命を狙う理由を説明する。


「ミスト王国の方々がクリスライドを狙う理由はグレドプテラです」


 グレドプテラ。クリスライドが自分の領地にあった前文明の遺跡から発見したドランノーガ以外で空を飛ぶ事が出来るゴーレムトルーパー。しかし暗黒領域での戦闘でドランノーガに敗れた後はサイの「倉庫」の異能によって異空間に今も収納されている。


「グレドプテラ? それがクリスライドを狙うことにどう繋がるんだ?」


「ミスト王国の方々は今もグレドプテラが暗黒領域の何処かに放置されていると考えて、捜索しているそうです。そしてクリスライドを狙うのは、彼を殺せば新たにグレドプテラの操縦士登録が出来るからです」


 ゴーレムトルーパーの操縦士に登録する方法は二つ。


 一つ目は操縦士が登録されていない、あるいは登録していた操縦士が全員死んでしまったゴーレムトルーパーの操縦室に入り、新たな操縦士として登録をする。


 二つ目は最初に登録をした操縦士の許可をもらい、予備の操縦士としての登録をする。


 ちなみに一つ目の方法でドランノーガの操縦士となったのがサイで、二つ目の方法で操縦士となったのがピオンを初めとする彼に従う四人のホムンクルスの女性達である。


「クリスライドはグレドプテラにご執心で、自分以外の誰もグレドプテラの操縦士にしなかったそうです」


「……それはそうかもしれないな」


 ピオンの言葉にサイは暗黒領域でグレドプテラと戦った時のクリスライドの言葉や、グレドプテラを失った時の彼の様子を思い出して頷く。あの性格なら操縦士登録を許可すればすぐにグレドプテラを奪われるかもしれないと疑って、許可など出さないと思う。


 とはいえサイにもクリスライドの気持ちは理解できた。サイがピオン達にドランノーガの操縦士登録を許可したのだって、彼女達が自分に絶対服従のホムンクルスであるからで、他のゴーレムトルーパーの操縦士達だって親族等の信頼出来る人間にしか操縦士登録の許可を出さないだろう。


「つまり……ミスト王国はどうにかしてグレドプテラに新しい操縦士を登録して、そいつにグレドプテラを持ち帰らせたい。その為に邪魔なクリスライドを殺そうとしているってことか?」


「はい」


 サイの言葉にピオンが頷く。


 クリスライドが死ねば、次にグレドプテラに乗った者が操縦士となる。王城にいる彼を殺せば大きな問題が起こるだろうが、それでも「空を飛べるゴーレムトルーパー」という戦力を取り戻すのがミスト王国が出した結論だった。

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