計画開始

 グレドプテラとその操縦士の少年の行方を聞き出すためピオン、ヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼの誰かを拉致しようと企むクロエ達ミスト王国の軍人達だったが、ピオン達を拉致する機会は意外にも早く訪れた。


 サイ達八人の集団はサイ以外は全員若くて美しい女性ばかりせ周囲の人達の視線を集め、彼らを観察するクロエ達の視線も目立たずにすんだ。更に彼らはまず最初に服を買いに店に訪れて、サイ達が服に試着をしている隙に最初に服を買って一人だけで店の外に出てきた、目標の一人である「赤紫色の髪の少女」を拉致することに成功したのだった。


「上手くいきましたね、クロエ殿」


 人目のつかない路地裏を走るラッセルが、脇に担いでいる赤紫色の髪の少女を見てから隣を走るクロエに話しかける。彼に担がれている赤紫色の髪の少女は、服を買って店を出てすぐにラッセル達に気絶させられており、走る度にその両腕と両足が揺れていた。


「ええ。まさかここまで上手くいくとは思いませんでした」


 クロエはラッセルに担がれている赤紫色の髪の少女がまだ気絶しているのを確認して頷く。その表情は公園の時のような緊張に満ちた表情から変わって、安心した様な微笑が浮かんでいる。


「どうやら彼女は今まで、あのサイというゴーレムトルーパーの操縦士に守られていたのでしょう。だから危機感が薄れてここまで簡単に拐う事ができた。つまり彼女はサイにとって非常に大切な人物で、私達が必要としている情報を知っている可能性が高いということです」


 クロエは自分の考えを言うとラッセルと共に赤紫色の髪の少女を連れて、仲間達との集合場所である町外れの倉庫へと向かった。




(ふむ……。この女の人、中々嬉しいことを言ってくれますね)


 ラッセルに担がれて運ばれている赤紫色の髪の少女、ピオンは気絶したフリをしながら先程クロエが言った言葉に内心で笑みを浮かべていた。


 ピオンがヴィヴィアン達に言った作戦通り、ミスト王国の軍人達を誘き出す為にわざと一人で行動して隙を見せたら早速彼らは行動を見せて彼女を拉致してきた。気絶したフリをしながらミスト王国の軍人達の様子を伺ってみたが、今のところこれがピオンの演技だとは気づかれていないようだ。


(私がマスターにとって非常に大切な人物、ですか……。うん。中々良い響きですね♩)


 もしミスト王国の軍人達を捕らえたらこのクロエには優しくしてあげようとピオンは決めると、次に「通心」の力でヴィヴィアンに連絡をとる。


(もしもし、ヴィヴィアン? そちらの様子はどうですか? 私が拐われたことに気づかれましたか?)


(いいえ。今、クリスナーガさんとブリジッタさんが服の試着をしていて、マスター殿はそれに付き合わされています。今のところ、ピオンが拐われたことに気付いていませんね)


(むう……。それはそれで複雑ですね……)


 ヴィヴィアンからの返事にピオンは内心で複雑な感情を抱くが、それを外に出すことなくヴィヴィアンに次の指示を出す。


(まあいいです。とにかく私はマスターとブリジッタさんとクリスナーガさん、婚約者同士の仲に気を使ってその場を離れたことにしてください。ああ、出来れば恩着せがましく言ってくださいね? その方が疑われないと思いますから)


(ふふっ。分かりました)


 自分の性格をよく理解しているピオンの指示に、ヴィヴィアンは小さく笑って返事をするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る