ピオンの罠
集合場所である倉庫に到着すると、ラッセルが脇に抱えていたピオンを床に下ろし、クロエ達ミスト王国の軍人達がそれを取り囲む。
「そろそろ彼女に起きてもらいましょうか」
「いえ、もう起きているから大丈夫ですよ」
「……!?」
クロエがピオンを起こすべく彼女の体に触れようとした時、ピオンは気絶したフリを止めて起き上がり、クロエを初めとしたミスト王国の軍人達は驚いた顔となる。
「貴女……!?」
「どうもミスト王国の皆様方、初めまして。私の名前はピオン。フランメ王国が誇るゴーレムトルーパーの操縦士、サイ様にとてもとても大切にされているホムンクルスの従者です。どうかお見知りおきを」
ピオンは驚きながら声をかけようとするクロエを無視して立ち上がり、自分を取り囲むミスト王国の軍人達に向かって優雅に自己紹介をする。今ピオンが来ているのはいつものフランメ王国の軍服ではなくつい先程店で購入した白のワンピースで、本人の容姿の美しさもあって貴族の令嬢のような気品も感じられるのだが、生憎と驚いた状態のままのミスト王国の軍人達にはそれを感じる余裕はなかった。
「貴女はいつから……いえ、待って……? 貴女、縄はどうしたの!?」
ピオンに話しかけようとしたクロエは、彼女の姿から感じた違和感の正体に気付いて声を荒らげる。店を一人で出てきた所を拉致した時、自分達は確かに彼女の両手を縄で縛ったはずなのに、それがいつの間にか解かれていたのだ。
「縄……? ああ、これの事ですか?」
クロエの叫びにピオンは手の中に持っていたものを彼女の前に落としてみせた。それはピオンの両手を縛っていたはずの縄の残骸であった。
「縄を引きちぎった? でもそんな素振りはなかった筈なのに……?」
異能の力を使えば拘束している縄を引き千切るのはそれほど難しくはない。しかしここに来るまでピオンにその様なことをする素振りは感じられなかった。もし気絶していたのが演技だったとしても、運ばれている途中に縄を引き千切ろうとしたら、ピオンを担いで運んでいたラッセルが気付かない筈がなかった。
「そんなに驚くようなものじゃないでしょう? ちょっと私の『異能』を使っただけですよ。……こんな風に」
ピオンはそう言うと、自分が落とした縄の残骸の一つを指で触れた。すると次の瞬間……。
ピオンが指で触れた縄の残骸が地面ごと消えて、地面に小さな半球状の窪みが残された。
『『……………!?』』
その異常な光景にクロエを始めとするミスト王国の軍人達は息を飲み、それを見たピオンは楽しそうな笑みを浮かべて口を開いた。
「ふふん♩ 皆さん、中々いい表情ですね? さて、それではミスト王国の皆様には聞きたいことが色々あるのですが、質問してもよろしいでしょうか?」
笑顔を浮かべながら言うピオンを見てクロエは、自分達が彼女の罠にかかった事に気付くのであった。
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