ピオンの考え

「これはマズいですね……」


 遠くから公園にいるサイ達の様子を見ていたクロエが苦々しい表情となって呟く。


「クロエ殿? マズいとはどういうことですか?」


 クロエの隣にいたラッセルが聞くと、彼女は公園にいるブリジッタを指差して答える。


「あそこにいる女性……アックア公国のブリジッタ公女で、報告では彼女はザウレードの操縦士らしいのです」


「なっ!?」


 ブリジッタがザウレードの操縦士であると知るとラッセルは顔色を変えて驚くのだが、それは仕方のないことであった。


 ゴーレムトルーパーの操縦士は例外無くナノマシンによって身体能力を大幅に強化されており、そこから生み出される戦闘能力は生身の人間ではどれだけ強力な異能を持っていても決して敵うことがない。なんとかサイの隙をついて彼の従者であるピオン達四人のホムンクルスの女性を拉致しようとしていたクロエ達にとって、ザウレードの操縦士であるブリジッタはこれ以上ない最悪の障害に見えた。


「どうしますか、クロエ殿? ここは一旦引くべきでは?」


 ゴーレムトルーパーの操縦士の戦闘力を知るラッセルは撤退するべきではとクロエに提案をして、彼女も実際に彼の提案も一理あると考える。ここにいる自分達だけでサイとブリジッタのゴーレムトルーパーの操縦士二人と相手をするかもしれない賭けに出るよりも、本国から来る増援を待ってから行動に出た方がいいかもしれない。しかし……。


「……いいえ。彼女達が少人数で行動する機会がこれから先あるか分かりませんし、増援が来る前に合同部隊が王都から離れる可能性もあります。ここは予定通り行動します」


「り、了解しました……」


 クロエが自分の考えを言ってから予定通りピオン達を狙う事を決定すると、ラッセルは額に一筋の汗を流して頷くのだった。




(やっぱりついてきますね……)


 全員が揃ったのでとりあえず買い物をしようと公園から店に向かう途中で、「感知」の異能でミスト王国の軍人達の気配を察知したヒルデが「通心」の力でピオン、ヴィヴィアン、ローゼの三人に話しかけた。


(諦めが悪い人達ですね。まあ、彼らからしたら私達という情報源を捕まえる数少ない機会だからしょうがないですけど)


(それでどうしますか? ただ倒すだけなら簡単ですけど、マスター様達に知られずにとなると少し面倒ですわよ)


(ふむ、そうですね……)


 ヴィヴィアンとローゼの「通心」の力で聞こえてくる言葉にピオンは、少し考えてから自分達の後をつけてくるミスト王国の軍人達をどう対処するか告げた。


(ここは手っ取り早くいきましょうか? とりあえず私、買い物の最中に彼らに拐われてきますから、フォローをお願いしますね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る