観光開始

「あれ? ピオン達だけ? サイはいないの?」


 ピオン達が相談を終えてしばらくするとブリジッタとクリスナーガ、そしてカーラが公園にやって来て、クリスナーガはピオン達の近くにサイの姿がない事に気づいて彼女達に訊ねる。


「ええ、マスターより先に出ましたから。こういうデートでは男と女は別々に出て待ち合わせるのが基本ですからね」


「そういうものですか?」


 ピオンの言葉に公女という身分だということもあり、デートの経験がないブリジッタが首を傾げる。


「そういうものなんですよ」


(ピオンさん。ちょっといいですか?)


 ブリジッタに頷いて見せるピオンにヒルデが「通心」の力で話しかける。


(何ですか?)


(今、『彼ら』に動きがありました。ブリジッタさん達が現れたのを見て、明らかに動揺しているみたいです)


(そうですか)


 ピオンとヒルデはブリジッタ、クリスナーガ、カーラの三人に気づかれないように、内心の感情を表情に一切浮かべる事なく「通心」の力で会話をする。


 ヒルデが言う「彼ら」とはヴェルリ砦からこの王都までついて来た、例のグレドプテラに関係しているミスト王国の軍人と思われる者達の事である。情報収集の為の対象としていたピオン達の前に、ゴーレムトルーパーの操縦士であるブリジッタとカーラが現れた事で動揺したのだろう。


(それで? 彼らはどうするつもりですか?)


 ピオンは「通心」の力でヒルデにミスト王国の軍人達の様子を聞く。


 ミスト王国の軍人達が欲しい情報はグレドプテラとその操縦士である少年の居場所。合同部隊のゴーレムトルーパーの操縦士であるブリジッタとカーラならその情報を確実に知っているであろうが、生身の人間が身体能力を強化されたゴーレムトルーパーの操縦士に勝てるはずがない。


 だからここでミスト王国の軍人達が取る行動は、危険を避けて一時撤退するか、危険を覚悟で予定通りピオン達を狙うかの二つだ。


(……今も動揺はしていますが、引く気配はありませんね。どうやら彼らは予定通り私達を狙うみたいです)


(分かりました。せっかくのデートにお邪魔虫が複数くっついてくるのは鬱陶しいですけど、私達も予定通りに行動しましょう)


 ピオンが「通心」の力でヒルデにそう言うと、彼女だけでなくヴィヴィアンとローゼからも頷く気配が伝わってきた。


「ピオン、どうしたの?」


「いえ? 何でもありませんが?」


 急に黙ったように見えるピオンにクリスナーガが訊ねると、ピオンは首を横に振って答える。今回の観光ではサイだけでなくクリスナーガ達にもミスト王国の軍人達について知られるわけにはいかない。ミスト王国の軍人達の事を知らせるのは全てが終わった後だ。


「皆さん。マスター殿が来たみたいですよ」


(マスター、ナイスなタイミングです)


 公園に現れたサイに気づいたヴィヴィアンが、彼を指差してこの場にいる全員に呼びかける。それに対してピオンは自分達の主人である青年に心の中で礼を言うと口を開いた。


「それじゃあ、デートを始めましょうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る