王都到着

「……結局、何も起こらなかったな」


 サイ達合同部隊がヴェルリ砦を出発してから三日後。アイゼン王国の王都に辿り着いたサイは、ここまで何もなかった道中に、安堵すると同時に肩透かしをくらったような気分で呟いた。


「まあ、それも仕方がないだろう。相手がどれだけの戦力を持っているかは知らないが、我々合同部隊に襲い掛かるのは無謀だと思うぞ?」


 サイの呟きを聞いたビークポッドが苦笑を浮かべて話しかける。


 ヴェルリ砦からこの王都までの道中、合同部隊はドランノーガを初めとする四体のゴーレムトルーパーを出して進んでいた。ミスト王国の者達としては、連行されているグレドプテラの操縦士の少年は何をしても救出しなければならないが、ビークポッドの言う通りゴーレムトルーパー四体がいる合同部隊に襲撃するのは無謀が過ぎるだろう。


「ジェラード達は襲ってきてほしそうな顔をしていたけどな」


 ジェラードとアイゼン王国出身の隊員達は、グレドプテラを使って暗黒領域のモンスターの行動を活発にさせたミスト王国に強い怒りを感じていた。しかしすでに捕虜となり抵抗する気力もない操縦士の少年に当たるわけにもいかず、それならばもしミスト王国の敵が襲ってきたらその敵に怒りの全てをぶつけてやろうと考えていたのだった。


 サイの言葉にビークポッドは王都に到着するまでのジェラードの様子を思い出して頷く。


「確かにあの時のジェラードは殺気だった顔をしていたな……。まぁ、ピオンの胸を見た途端、だらしない顔となったが」


「それはお前も同じだろ、ビークポッド? あの時、ジェラードの隣でピオンの胸を見ていたの知っているんだからな?」


「お前もだろうが」


 ヴェルリ砦から王都までの道中で一度、ミスト王国への怒りから険しい表情を浮かべるジェラードを見かねたピオンは、彼の前で胸元を開きその豊かな乳房を揺らしたことがあった。それによってジェラードは険しい表情を一瞬で笑顔に変えて、サイとビークポッドの二人もその時にピオンの胸を凝視していた。


 流石はサイ達……ではなく巨乳好きな馬鹿一号から三号。真剣な場面が長続きしないのは、余裕があると見ればいいのか性欲が強いと呆れればいいのか迷うところである。


「まあ、とにかく、王都に到着したから俺達の仕事はここまでだ。後の難しい話は上の方に任せよう」


「そうだな。最近急いで移動することが多かったから少しくらいゆっくりしたいものだな」


 サイの言葉にビークポッドは頷きそう答えるのであった。

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