ヒルデの警告

「やれやれ、もう移動しないといけないなんて、私達も中々忙しいですね?」


 サイ達がヴェルリ砦に帰還した翌日。合同部隊はアイゼン王国の王都へ向かう事に急遽決まり、砦の中庭で移動の為の準備をしていたピオンが呟く。


「それは仕方ないだろ? 彼を王都に届けるように言われたんだから」


「………」


 ピオンに話しかけたサイが指差したのは、中庭の隅で縄で縛られた状態のまま地面に座っているグレドプテラの操縦士である少年。少年は未だにグレドプテラを失った事実から立ち直っておらず、サイに自分のことを言われても全く反応せずに俯いたまま地面を見つめていた。


 暗黒領域のモンスターの活性化がミスト王国の仕業であり、しかもグレドプテラという空を飛ぶゴーレムトルーパーを保有していたという事実は、急ぎ王都に知らせて今後の対応を考える必要がある。そう考えたヴェルリ砦の責任者はサイ達合同部隊に、操縦士の少年を王都へ送り届けると同時に今回の事件の詳細を報告して欲しいと依頼してきたのだ。


「そうだぜ。それにあんなクソ餓鬼でもミスト王国の王子だからな。助けようとする奴も来るはずだ。下手にここに置いて救援の為の部隊を結成させる時間を与える訳にはいかないからな」


 サイとピオンの会話に明らかに不機嫌そうな顔をしたジェラードが操縦士の少年を睨みながら参加してきた。


 ジェラードが不機嫌そうな表情をしているのも無理はない。なにせ少年が操縦するグレドプテラによって起こされたモンスターの活性化により、ヴェルリ砦は大きな被害を受けた上に実の父親が乗るゴーレムトルーパーは中破し、父親も大怪我を負ったのだから。


「確かに……それらしい方々も来ているようですし、急いだ方がいいかもしれませんね?」


『『………!?』』


 ジェラードに続いて会話に参加してきたヒルデの言葉にサイとジェラード、そして会話が聞こえていた数人の合同部隊の隊員達が驚いた顔となり、彼女を見る。


「お、おい! それは一体どういう事だよ? 何でそんな事が分かるんだ?」


「ヒルデは人間などの気配を知ることができる『感知』の異能を持っているんだ。それでヒルデ? それらしいっていうのはどういう事だ?」


 ヒルデに話しかけるジェラードの疑問に答えたのは彼女ではなくサイだった。サイはジェラードの疑問も短く答えると、本当に操縦士の少年を助けに来たアイゼン王国の人間が近づいて来ているのか訊ねる。


「昨日の夜から数人の人間の気配をヴェルリ砦の近くで感じていました。しかしその人間達の気配はヴェルリ砦の近くに陣取るだけで近づこうとせず、まるで様子見をしているような感じなのです」


「それは……確かに怪しいな。何事も無ければいいんだが……」


 サイはヒルデの報告にアイゼン王国の王都への道中に不安を感じ、無事に目的地へ辿り着けることを祈るのであった。

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