ピオンの秘密

「なんというか、それだけ聞くとこちらが悪役ね……」


 数時間後、ヴェルリ砦の一室でピオンとグレドプテラの操縦士である少年の会話を聞いたクリスナーガが苦笑を浮かべ、サイもまた苦笑を浮かべて頷く。


「確かにな。でもピオンの言うことも一理あるし、お陰で助かっているよ」


 ゴーレムトルーパーの操縦士は全員がナノマシンにより身体能力を大きく強化されている。その身体能力から発揮される戦闘力は「超人化」の異能を持つ兵士でも敵わず、もしグレドプテラの操縦士の少年が力づくでここから逃げようとすれば、ヴェルリ砦は少なくない被害が出る可能性があった。


 しかしピオンの言葉によって抵抗する気力を失った操縦士の少年は、あれから一切の抵抗をせず大人しいもので、ゴーレムトルーパーの操縦士を大人しくしたと考えればピオンのお手柄と言えた。


「それでその操縦士の少年の事は分かったの?」


 クリスナーガが聞くとサイは首を横に振る。


「今のところ全く。あの少年はこちらの質問に答えようとしない……いいや、あれは『答えられない』と言った方が正しいかな? ピオンの言葉で抵抗する気力どころかまともに考える気力を失ったようで、仕方がないからローゼの『読心』で調べることになった」


「ああ、なるほど」


 今この部屋にはサイとクリスナーガの二人しかおらず、クリスナーガは何故ピオン達が部屋におらず自分達しかいないのかを理解した。


 ローゼの「読心」の異能は相手の心、感情の動きと記憶を読み取る異能だ。だから操縦士の少年に答える余裕がなくとも、質問されれば感情の動きが生じて質問に関する記憶が浮かび上がり、少年が何者であるかもすぐに分かるだろう。


「ローゼの異能って本当に便利よね。怖いくらいだわ」


 何せ質問をするだけで拷問も無しに最短で正確な情報を捕虜から得ることができるのだ。クリスナーガがローゼの「読心」の異能を怖いくらい便利だと評価するのも妥当だと言えた。


「怖い、か……」


 しかしサイはそんなクリスナーガの言葉に対して小さく呟いた。


「どうしたの?」


「一番怖いのは、ピオンだよ……」


「え? どうしたの、いきなり? それはあの容赦のない性格は怖いけど……」


 クリスナーガの言葉の途中でサイは首を横に振ってから口を開く。


「そうじゃない。クリスナーガ、君はピオンの異能を知っているか?」


 サイに聞かれてクリスナーガは少し考えた後に首を横に振る。


「いいえ。知らないけど?」


「俺は前に一度、ピオンにどんな異能が使えるか聞いたことがあるんだよ。するとアイツ、自分の異能について教えてくれてからある話をしたんだ。……なぁ? どうしてピオン達みたいに感情が豊かだったり、異能が使えるホムンクルスが他にいないと思う?」


 いきなり関係の無い話をしだしたサイに疑問を覚えるクリスナーガだが、確かに少し妙な話だと思った。確かに起動しているホムンクルスは珍しいが、それでも全くいないわけではない。しかしそれでもピオン達のように感情が豊かだったり、異能が使えたりするホムンクルスは彼女達以外見たことも聞いたこともなかった。


「ピオンから聞いた話だと前文明の技術力だったら、ピオン達みたいに感情が豊かで異能が使えるホムンクルスは量産が可能だったらしい。でも前文明はそれをしなかった。その理由は自分にあるってピオンは言っていたんだよ」


「それってどういうこと?」


 サイの言葉に思わずクリスナーガが聞くとサイは難しい顔となる。


「……悪いけどこれ以上は言えない。人の秘密はあまり言うべきじゃないし、周りを怖がらせたくないからな。でも……」


 サイはそう前置きをするとクリスナーガの目を見て口を開いた。


「ピオンはあまり怒らせないほうがいい。アイツの異能は本当に危険なものなんだ」

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