ピオンの残酷な言葉

「さて、なんとかモンスターに襲われることなくヴェルリ砦に帰ってこれたのですが……」


「だけどこれは……」


「一体どうしたんだ?」


 ピオンの言う通り、モンスターに襲われること無事にヴェルリ砦に帰還することができたサイ達だったが今彼らは困惑の表情を浮かべており、ピオンの言葉にサイとジェラードが続く。


「………」


 サイ達が困惑している理由は目の前にいる一人の少年。彼は暗黒領域で出会ったグレドプテラの操縦士である人物であった。


 サイ達はこの少年を拘束してここまで連行して来たのだが、それに対して彼は抵抗する素振りを見せないどころか、今にも死んでしまいそうな酷い顔色で俯いたまま何も話そうとしなかった。そんな少年の様子にサイ達は顔を見合わせる。


「ねぇ、ブリジッタさん? 彼は一体どうしたの?」


「あ……それは……」


 マリーは少年をここまでザウレードに乗せていたブリジッタに聞く。それに対してブリジッタが視線を泳がせてどう答えようかと考えていると、それまで無言だった少年が蚊の鳴くような声で話かけてきた。


「なぁ……。サイってのは誰なんだ……?」


「? 俺だけど?」


 少年の言葉にサイが答えると、少年はゆっくりと顔を上げてサイに視線を向ける。その少年の目は絶望、怒り、悲しみ、そして僅かな希望が混ざり合った複雑な感情の色を宿していた。


 少年はブリジッタの横に立つカーラを一度見てからサイに震える声で話しかける。


「そこの女が言ってた……。俺のグレドプテラをお前が奪ったって……。お前は『封印』の異能を使ってグレドプテラを異空間に封じて、グレドプテラは二度と返ってこないって……」


「何?」


「………!」


 少年の言葉にサイは思わず首を傾げ、その横でピオンはこの少年が様子がおかしい理由、ザウレードでカーラが何を言ったのかを瞬時に理解した。


「な、なぁ嘘だろ? この女が言ったのは嘘なんだよな……? 『封印』の異能なんかなくて、グレドプテラは返ってくるよな……?」


「『封印』の異能? 俺の「残念ですけどグレドプテラは返ってきませんよ」ピオン?」


 すがるような声で言う少年にサイが返事をしようとすると、そこにピオンが割り込んできた。


「………!?」


「何、驚いた顔をしているんですか? 当然のことでしょう?」


 グレドプテラが返ってこないという言葉にショックを受けた顔となる少年に、ピオンは悟すように話しかける。


「少し考えたら分かるでしょう? 空を飛んで地上へ一方的に爆撃を出来るゴーレムトルーパーなんて厄介極まりないのに、貴方はそれを使っていきなり私達に攻撃を仕掛けてきたんですよ? そんな危ない子に危ないゴーレムトルーパーを返せるわけがないじゃないですか? まあ、空を飛ぶゴーレムトルーパーは珍しくて惜しいですが、マスターのドランノーガも飛べますからいいでしょう」


「………」


 ピオンの話を聞いていくうちに少年は、ただでさえ悪かった顔色をまるで死人のように白くして再び俯き、何も言わなくなる。そんな残酷な言葉をぶつけられて落ち込む少年の姿を見て、サイ達は流石に同情を禁じ得なかった。

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