カーラの嘘
サイ達はグレドプテラに乗っていた操縦士と思われる少年を拘束すると、ひとまず少年を連れてヴェルリ砦に戻る事にした。ドランノーガとグレドプテラの空中戦は暗黒領域にいるモンスター達を刺激したようで、周囲からのモンスターと思われる視線が多くなり、いつ襲われるか分からないからだ。
そしてとりあえず少年はヴェルリ砦に着くまでザウレードの操縦室に乗せることになった。少年をザウレードに乗せた理由はザウレードがブリジッタとカーラの二人乗りで、もし少年が目を覚まして抵抗しようとしても、カーラで取り押さえる事ができる為である。
二人乗りなのはサイとピオンが乗るドランノーガも同じなのだが、ドランノーガにはモンスターが襲ってきた時に、上空からの偵察やヴェルリ砦にいるヴィヴィアン達への連絡等といった仕事があるので除外されている。
「ん……?」
「ブリジッタ様。彼が、目を、覚まし、ました」
ヴェルリ砦への帰り道の途中、ザウレードの操縦室の中で少年が目を覚まし、それに気づいたカーラがブリジッタに知らせた。
「え? そうですか? あの、大丈夫ですか?」
「っ!? こ、ここは何処だ!」
ブリジッタはザウレードを操縦しながら少年に墜落した傷はないか聞くのだが、少年はそれに答えず気がつけば見知らぬ場所にいることに驚き声を荒らげる。
「おい! ここは何処だと聞いている! 答えろ!」
「捕虜の、くせに、態度が、大きい、ですね。この、クソ餓鬼」
「か、カーラ?」
ブリジッタに向かって大声を出す少年に、カーラはその無表情を僅かに不愉快そうに歪めて悪態を吐き、ブリジッタは自分の従者であるホムンクルスの女性の意外な一面に目を丸くする。
「い、いや! それよりグレドプテラだ! おい、お前! 俺のグレドプテラは何処にやった!?」
「俺のグレドプテラ……。やっぱり貴方がグレドプテラの操縦士だったんですね」
少年の言葉にブリジッタは彼がやはりグレドプテラの操縦士であったと確信を得る。そして少年は自分の質問に答えない彼女に苛立ち、癇癪を起こして怒鳴る。
「答えろよ! グレドプテラは何処に何処やったかと聞いて……むぐっ!?」
「いい加減、黙やがれ、です。クソ餓鬼」
少年の言葉の途中でカーラが少年の口を塞ぎ、その後彼女は少年に冷たい視線を向けながら話しかける。
「そんなに、知りたいなら、教えて、あげます。ゴーレムトルーパー、グレドプテラは、サイ様の、異能によって、この世から、なくなり、ました」
「ちょっと、カーラ!?」
勝手に秘密にすべきグレドプテラの在り方を話し始めるカーラにブリジッタに声をかけるが、彼女は構うことなく少年へ向けて言葉を続ける。
「サイ様の、異能は、とても特別な、異能です。効果は対象を、異空間、送る、というもの。その異空間は、例え、サイ様ご自身で、さえも、何処にあるか、分かりません」
「……」
カーラの言葉を聞いてブリジッタは、自分の従者が何を考えているのかを理解して黙る。
当然ながらカーラの言葉は嘘である。正確には事実の一部を言っていないだけであるが、サイの「倉庫の異能」の事を知らない少年は、今のカーラの話に顔を青くして明らかに動揺した目でホムンクルスの女性を見る。
「う……
「嘘だと、思う、なら、サイ様に、聞いて、見たら、どうですか? きっと、答えて、くれると、思い、ますよ?」
(答えてくれるのはサイさんじゃなくて、きっとピオンさんでしょうね……)
カーラの言葉を聞いてブリジッタは心の中で呟いた。
サイはともかく「あの」ピオンのことである。きっとすぐにカーラの嘘と、嘘をついた理由に気づき、その嘘を利用してこの少年が二度と敵対する気を起こさないように心を折る光景が、ブリジッタの脳裏に鮮明に浮かび上がった。
「………」
そしてカーラの嘘がよほどショックだったのか、少年はさっきまで騒いでいたのが嘘のように静かになったのだった。
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