畏怖の一撃

 カロル・マーグヌム・コルヌ。


 ドランノーガの下半身の竜の頭部にある角から放たれる主砲と言える武装。その威力は凄まじく、放たれた瞬間ドランノーガを中心に強い光と衝撃が周囲にと広がった。


 放った本人であるドランノーガですら、両後脚のパイルアンカーで機体を地面に固定した上に尻尾にあるブースターを噴出しなければカロル・マーグヌム・コルヌの反動に耐え切ることは出来ないのだ。ヴェルリ砦から様子を見ていた合同部隊の隊員達や砦の兵士達からすれば、突然大嵐の中に放り込まれたようなものだろう。


「………!? こ、これは一体!?」


「分からん! おい! 全員床や壁にしがみ付いているか!? 危ない奴がいたら手を貸してやれ!」


「は、はい!」


「す、すみません……」


 突然の衝撃にマリーが床に伏せながら言うと、それにジェラードが答えてから周囲に呼びかける。すると丁度今、暴風で体を飛ばされそうになったビークポッドの手をブリジッタが掴み、自国の公女に助けられたビークポッドは申し訳なさそうな表情で礼を言った。


 ドランノーガを中心として広がった光と衝撃が続いた時間は十秒くらいであったが、ヴェルリ砦にいる者達からすればそれ以上に長く感じられた。そしてやがて光と衝撃が収まり、砦にいる者達が城壁から顔を出してドランノーガがいる方を見てみれば……。


 そこには紺色の機体のゴーレムトルーパーの背中しかなく、その先には何も無かった。


 ヴェルリ砦に向かって来ていた百匹を超える芋虫のモンスターの大群も、暗黒領域の森も跡形もなく消え去り、ただ黒く焼き焦げた大地が広がっているだけであった。


『『……………』』


 ヴェルリ砦にいる者達は全員、そのあまりの光景に言葉を失っていたがそれは仕方がないことだろう。


 ゴーレムトルーパーが惑星イクスで最強の兵器であり、強大な力を持っているのは皆も知っていることだが、それでもたった一撃で百を超えるモンスターの大群を地形ごと消し飛ばす攻撃など誰が想像出来るだろうか?


 ジェラードはヴェルリ砦の城壁にいる他の兵士達と同様、呆然とした表情でドランノーガの主砲により黒く焼き焦げた大地を眺めながら呟いた。


「これは……絶対に報告しなければいけないな」


「ええ、そうね……」


 ジェラードの呟きが聞こえていたマリーも黒く焼き焦げた大地を眺めながら彼の言葉に同意をする。


 ジェラードとマリーが合同部隊に参加したのは彼らの国がフランメ王国とアックア公国と同盟を結んだ事を示す為だが、それと同時に新たに現れ謎が多いゴーレムトルーパー、ドランノーガの情報を調べる為でもあった。そして今ドランノーガが放って見せた主砲の一撃は絶対に本国に「フランメ王国とは敵対するべきではない」という意見と共に報告するべき情報であるとアイゼン王国とソル帝国のゴーレムトルーパーの操縦士は考えた。


 この時のジェラードとマリーの目には、決して隠し切れない畏怖の感情が浮かび上がっていた。

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