マリーの作戦

「くっ……!? まさかここまでいいようにされるとは……!」


 ヴォルダートに続いてザウレードにも自分のゴーレムトルーパーを傷つけられたミッシェルは悔しげな表情を浮かべて言葉を漏らす。


 確かにザウレードを素人の公女が乗るお飾りの機体だと油断していた。


 ドランノーガによる砲撃という初めて経験する攻撃に戸惑いもした。


 しかしミッシェル達はサイ達合同部隊の操縦士達よりずっと長い間、前線で戦ってきた歴戦の操縦士なのだ。それがここまでいいようにされて心穏やかにいられるはずがなかった。


 ミッシェルがヴォルダートの方を見ると、アイゼン王国のゴーレムトルーパーはドランノーガの砲撃で砕かれた大地を跳ね回るように動き、ソル帝国のゴーレムトルーパー二体を翻弄していた。


(この戦い……あの時と同じだな)


 自分達の機体が苦手とする地形で苦戦を強いられている今の状況に、ミッシェルは苦い記憶を思い出す。


 ザウレードの前の操縦士、黒竜盗賊団団長エルヴァンは、認めるのも腹立たしいがゴーレムトルーパーの操縦士として、操縦の腕だけでもなく戦術面でも優れていた。


 数年前、エルヴァンが乗るザウレードがソル帝国のとある街で略奪を行った時に駆けつけたのがミッシェルだった。しかしその時エルヴァンはわざと地面が荒れた場所に彼を誘き寄せ、機体を上手く動かせない隙をついて攻撃を繰り出し、最後には逃走をしていったのだ。


 あの時の戦い方を、自分達と同じゴーレムトルーパーに乗るマリーが参加している合同部隊が使うとは思っていなかったミッシェル達は、見事にその思考の隙を突かれてしまったというわけである。


(そうか……この作戦を考えたのはお前か、マリー)


 ミッシェルはザウレードの攻撃を避けながら、後方でこちらの様子を見ているマリーのゴーレムトルーパーに気づき、今回の作戦を立てたのが誰かを理解する。彼は以前、彼女にザウレードに逃げられた失敗談を話して似たような状況にならないよう忠告したことがあり、恐らくその時の会話からマリーは今回の作戦を立てたのだろう。


 後輩の娘にした忠告が今こうして自分達を苦しめているのはどういう皮肉なのだろうかと考えながらミッシェルは再び戦場を見渡すと、マリーの更に後方から砲撃を行っていたドランノーガが砲撃を止めてこちらに向かってくるのが見えた。


 どうやら合同部隊はここで一気に勝負を決めるつもりらしい。


「いいだろう。望むところだ」


 ミッシェルもここで勝負をつけることを決めると、これまでの動揺や慢心を捨ててまず目の前にいるザウレードを冷静に見据えるのであった。

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