ソル帝国の歓迎
サイ達合同部隊がアックア公国の首都を出て十日後。合同部隊は国境を越えてソル帝国の首都の近くまで来ていた。
サイの「倉庫」の異能により物資のほとんどを異空間にしまった合同部隊は必要最低限の荷物だけを持つ身軽な姿で道を進んでいる。彼らのほとんどは徒歩か馬なのだが三台の馬車の姿があり、その内の一台にサイが乗っていた。
「……やっぱり気が引けるな。自分達だけ楽しているみたいで」
馬車の中でサイは落ち着かない様子で呟く。外にいる合同部隊の隊員達は常に移動をしながら周囲を警戒している中、自分達だけこうして馬車の中で何もしていないのを気にしているのだった。
「今更何を言っているんだよ?」
「私達ゴーレムトルーパーの操縦士はこの合同部隊の要。いざという時の為に体力を温存しておくのも仕事の内よ」
「でもそれがドラン……いえ、サイさんの良い所ですから」
サイの呟きにジェラードが呆れたように言い、続いてマリーが冷静に意見をすると、ブリジッタが自分の婚約者をフォローする。
現在この馬車にはサイとブリジッタ、ジェラードとマリー、そしてピオンとビークポッドの六人が乗っており、馬車の中央にはチェス盤の上に置いた小さな机があった。
「あら? マスターをお助けするのは私の役目なのに出遅れましたね。……こういうのはどうでしょうか?」
ブリジッタがサイをフォローするのを見たピオンはわざと拗ねる様な口調で言うと、チェス盤にある一つの駒を動かした。チェス盤には白の駒が六個、そして黒の駒が四個あり、今ピオンが動かしたのは黒の駒である。
「なるほど。これは中々面白い手ですね。……それでマリーさん、次はどう動くと思いますか?」
ピオンが駒を動かしたチェス盤をビークポッドが興味深そうに見て、彼は隣に座るマリーに訊ねる。するとマリーはしばらくチェス盤を眺めた後、考えながらチェス盤に手を伸ばす。
「そうね……。こんな予想外な出来事が起こったなら、多分彼が……っ!?」
そう言いながらマリーがチェス盤にある白の駒の一つを摘もうとしたその時、地面が大きく揺れて、チェス盤の駒の殆どが馬車の床に落ちてしまう。
「な、何だ地震か!?」
突然の揺れにジェラードが立ち上がって言うが、断続的に大きく揺れる地面の揺れ方は地震とは思えなかった。
「とにかく外へ出てみよう」
この揺れで馬車は動きを止めており、サイは何が起きているのか確かめる為に馬車の外に出る。そしてそこで見たのは巨大な影だった。
「あれは……ゴーレムトルーパー?」
サイの視線の先、合同部隊の進行方向の先には、巨大な馬の背に騎士の上半身が生えた外見をした鋼鉄の巨像が立っていた。しかも一体だけでなく、鋼鉄の巨像は五体あり、その圧倒的な光景に合同部隊の隊員達は全員驚きの表情を浮かべていた。
「これは豪勢ですね?」
「ゴーレムトルーパーが五機も……?」
「あんな所で立って、もしかして俺達のお出迎えのつまりか?」
サイと同じく馬車の外に出たピオン、ビークポッド、ジェラードが五機のゴーレムトルーパーを見ながら言うと、マリーがジェラードの言葉に頷く。
「恐らくそうでしょうね。ソル帝国が保有しているゴーレムトルーパーは七機。私と皇帝陛下のを除いた全ての機体がここに来ている。……どうやら私達、やっぱりいい意味でも悪い意味でも注目されているみたいね?」
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