参加の理由

「……マスター? もしかしてこうなることを知っていましたか?」


 ピオンはサイの表情が驚いているものの、他の合同部隊の隊員達に比べて驚きの度合いが「薄い」ことに気づくと、サイに近づき彼にだけ聞こえる程度の小声で話しかける。


「三日前、ザウレードを王宮の格納庫に運んだのは俺だ。だからザウレードを使うのは予想できていたけど、ブリジッタが操縦士になったのは予想外だった」


 小声で話しかけてきたピオンにサイも小声で答えていると、我に返ったジェラードが思わず大声を上げる。


「ちょっ……!? ザウレードって、『あの』ザウレードですか? それを合同部隊に使うって本気なのですか!?」


 バルベルトに向かって叫ぶジェラードの声と表情には、戸惑いの他に批難するような感情が見えたのだが、誰も彼を止めたり咎めようとはしなかった。ジェラードが言っていることはこの場にいる全員が少なからず思っていることだからだ。


 フランメ王国から奪われて黒竜盗賊団で使われていたザウレードが世界各地を荒らし回った記憶は、今も多くの人々が覚えている。そのような機体を合同部隊で使えば現地でいらぬ誤解を受ける可能性もあった。


「確かにザウレードはかつて黒竜盗賊団で使われ、世界各地に悪名を広めた。だがだからこそ今回の合同部隊に使用することにした」


 ジェラードの言葉に答えたのはバルベルトではなくフランベルク三世だった。


「皆も知ってのとおり、そこにいるサイ・リューラン小佐の活躍により、黒竜盗賊団は壊滅しザウレードはフランメ王国へ返ってきた。しかし各国の一般市民は今だその事を理解していない者も多く、中には黒竜盗賊団の復活を望む者もいるらしい」


 フランベルク三世の言葉は本当のことである。かつてサイによって倒された黒竜盗賊団の団長エルヴァンは、基本的に王族や貴族などの権力者だけを標的としていて、横暴な権力者に苦しめられていた一般市民からは密かに人気を集めていたのだ。


 ジェラードを初めとする合同部隊の隊員達も、黒竜盗賊団が一部の市民から慕われていたことを知っていた為、複雑な表情となり黙り込む。そしてそれを見てフランベルク三世は言葉を続ける。


「この合同部隊でザウレードを使うことを決めたのは、各国に黒竜盗賊団が壊滅したことを改めて知らしめるためだ」


「そしてザウレードをアックア公国へ譲渡してもらい、ブリジッタをその操縦士としたのは合同部隊の正当性を強調するためだ。一国の公女が参加して前に出ていたら民の影響は大きいだろうならな」


 フランベルク三世がザウレードを合同部隊に使用することを決めた理由を説明すると、次はバルベルトがブリジッタをザウレードの操縦士にした理由を説明する。二人の指導者の説明を合同部隊の隊員達は一応は理解したみたいだが、それでも完全に納得してはいないようで、そんな合同部隊の隊員達を見てヒルデが心の中で呟いた。


(この合同部隊、何も問題が無ければよいのですが……。どうか愛しのマスターが哀しむような事態が起きませんように……)

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