因縁の機体

「……そういえば。サイ、お前はアックア公国のゴーレムトルーパーの操縦士を知らないか?」


 サイとマリーの会話を聞いていたジェラードがサイに質問をする。この合同部隊にフランメ王国からサイが参加するのは知っていたジェラードだが、アックア公国から誰が参加するのかは知らず、そしてそれはマリーも同様で彼女もサイの方を見る。


「そうね。私もアックア公国から誰が合同部隊に参加するかは聞かされていないわ。何か知らない?」


「すまない。俺も誰かは聞かされていないんだ」


 バルベルトからこの合同部隊の話を聞かされ、合同部隊に参加するようにと書かれたフランベルク三世直筆の命令書を受け取った時、サイはアックア公国からは誰が合同部隊に参加するのかと聞いたことがあった。しかしバルベルトは「まだ正式には決まっていない」と答えたのであった。


「どういうこと? この合同部隊を提案したのはアックア公国なのよ? それなのに参加させるゴーレムトルーパーの操縦士を決めていないなんてあり得るの?」


「そこまでは……。ただ、その操縦士を参加させるには他の国に説明して認めてもらう必要があるって言っていたな」


 マリーの言葉にサイが首を横に振って答えてからバルベルトが言っていた言葉を思い出して言うと、それにジェラードが首を傾げる。


「どういうことだ? 他の国ってアイゼン王国にソル帝国、フランメ王国のことだよな? 合同部隊に参加する国に認めてもらう必要があるって、どんなに厄介な奴なんだ?」


 ジェラードの言葉にこの部屋にいる全員が心の中で同意する。合同部隊を提案したアックア公国が他の三国から参加の許可を求めるゴーレムトルーパーの操縦士なんてどう考えても普通とは思えなかった。


「多分これから行われる会議ではその操縦士に関する話もされるのでしょうね」


「そうね。……とにかくそのアックア公国の操縦士がどんな人かは知らないけど、馬鹿な会話をしない人であってほしいわ」


『『……』』


 クリスナーガの言葉にマリーは頷くと、横目でさっきまで馬鹿な会話をしていたサイとジェラードを見て、視線を向けられた二人は気まずげに眼をそらすのであった。




 その日の夜。サイは一人でアックア公国の宮殿にあるゴーレムトルーパーの格納庫に来ていた。


「わざわざ呼び出してすまなかったな、サイ」


 格納庫にはバルベルトがいて、彼がサイを格納庫に呼び出したのであった。


「いえ。それより何かごようでしょうか?」


「ああ、そうだ。サイ、……………を出してくれないか。フランメの言われて『倉庫』の異能でしまっているんだろ?」


「えっ? 確かにそうですが……分かりました」


 バルベルトの言葉が意外だったサイは一瞬戸惑った表情を浮かべるが、すぐに木を取り直して「倉庫」の異能で収納していたモノを呼び出す。すると次の瞬間、何もなかった空間に巨大な影が出現した。


 それは全身が漆黒で、両前脚に鎌のような鋭い刃を、背中に戦士の上半身を持つ竜の外見をした鋼鉄の巨像。


 かつてフランメ王国から奪われて世界各国を荒らし回り、このアックア公国でろ獲されたゴーレムトルーパー、ザウレードである。


 サイは黒竜盗賊団を倒し、このザウレードを取り返すことによって今の地位を手に入れた。そう言う意味ではザウレードは荒らされた国々だけでなく、彼にとっても因縁のある機体であった。

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