クリスナーガの異能
「ありがとう、クリスナーガ」
サイはクリスナーガに礼を言うと、自分達へ差し出された彼女の手を取ろうとした。するとその時……。
「あらっ♪ 手が滑っちゃいました♪」
「何?」
「えっ?」
わざとらしい声を出したピオンが、クリスナーガの手を取ろうとしたサイの右手を掴み、前にとつき出させた。その結果、サイの右手はクリスナーガの豊満な巨乳に触れて……。
むにゅん♪
そんな音が聞こえてきそうなほどの柔らかい感触を手から感じたサイは、同時に自分の手によってクリスナーガの巨乳が変形するのを至近距離から目撃した。
「ちょっ……!? ピオン?」
「いえ、今朝は私達がマスターを独占して愛し合いましたから、ここは婚約者であるクリスナーガさんの好感度を上げとこうと思いまして」
突然の出来事に顔を赤くするクリスナーガにピオンが若干申し訳なさそうな表情で答える。どうやら先程の行動は単なる悪戯ではなく、ピオンなりに気をつかっての行動だったらしい。
しかしここでピオンが言った好感度とは「クリスナーガの中のサイに対する好感度」ではなく「サイの中のクリスナーガに対する好感度」であり、この辺りは自らの主人を第一と考えて行動するホムンクルスらしいと言える。
「まさかの気づかいからの行動!? そ、そんなことをしなくても私とサイはちゃんと思いあっているから。ね、ねぇ、サイ?」
クリスナーガに話をふられてサイも顔を赤くしながら顔を縦に振った。
「そ、そうだぞピオン。全くお前って奴はよくやっ……じゃない、よくやった! ……アレ?」
本来ならここで形だけでもピオンを叱らないといけないのだが、流石はサイ……ではなく巨乳好きな馬鹿。突然の出来事に混乱していても自分の欲望には忠実である。
「~~~! もう、サイったら。いいからもう行くよ! ほら、皆も早く私につかまって」
この様なやり取りにあまり慣れていないクリスナーガは、ますます顔を赤くしてまだ自分の胸に触れているサイの右手をつかんで胸から離し、ピオン達四人のホムンクルスの女性達が自分に触れたのを確認すると異能を発動させた。クリスナーガが異能を発動させると周囲の景色が一瞬で変わった。
クリスナーガの「瞬動」の異能。
一度行ったことがある場所へ一瞬で移動する異能。遠く離れた場所へ自分以外の人間も連れて移動する場合は、移動先を強くイメージして「力」を溜める必要があるが、移動するのが自分一人で目に見える範囲なら即座に能力を発動させることができる。
クリスナーガの異能で移動した先はアックア公国の宮殿の内部で、そこではアックア公国の貴族や文官が慌ただしく何かの準備をしていたのだった。
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