驚きの書類
「……よし。これで手続きは全て終わったな?」
アックア公国の首都にあるサイ達の活動の拠点である屋敷の一室。そこでサイが一枚の書類に署名をして横にいるピオンに訊ねると、赤紫の髪をしたホムンクルスの女性は笑顔で頷いた。
「はい♪ これでこのお屋敷はマスターの物です。二軒目のお屋敷ゲットですね♪」
サイが署名していた書類は、今彼がいる屋敷の所有者をサイにするための手続きの書類だった。
この屋敷にいるのはアックア公国に滞在している間だけだとサイ達は思っていたのだが、バルベルトやビアンカは最初からこの屋敷をサイに譲る予定だったらしい。
サイはフランメ王国の貴族であり軍人だが、クリスナーガとブリジッタと婚約した時からアックア公国の貴族と軍人にもなっている。それなのに屋敷がフランメ王国にしかないのは、仮にもアックア公国の公女を軽んじているというのがバルベルト達の言い分である。
そしてこの屋敷をサイの物にするのに一番乗り気だったのがピオンだ。その国の中心に屋敷を持つのは権力の現れで、自分の主人であるサイが権力を持つことを強く望む彼女は、この屋敷を彼の物にする手続きのほとんどを行ったのだった。
「ではこの書類は私の方から提出しておきますね」
「ああ、頼むよ。……はぁ」
手続きの書類をまとめたピオンが言うと、サイは返事をしてから一つため息を吐いた。
「お疲れですか、マスター殿」
今この部屋にはサイと彼に従う四人のホムンクルスの女性達がいて、サイがため息を吐くとヴィヴィアンが話しかけてきた。
「うん? いや、疲れたと言うか……色々なことがあったなと思ってな」
ヴィヴィアンに答えたサイは、机の上にある手続きの書類とは別の書類に視線を向ける。それは先日の猪のモンスターの群れと巨大な亀のモンスターとの戦闘の報告書と、そしてフランメ王国から来たサーシャが三体の蜥蜴のモンスターと戦ったという報告書であった。
アックア公国軍との合同任務で予定にない巨大な亀のモンスターと戦闘になっただけでも驚きなのに、その直後にサーシャがドラトーラに乗ってモンスターを退治したという報告が来たので更に驚いた。しかしサーシャは出撃する時にドラトーラを「浮遊」の異能で浮かし、王都リードブルムやいくつもの村に街の上空を通過したと言うのだ。
「確かにサーシャさんの件は私達も驚きましたね」
「それに加えてこの件もありますからね」
サイの考えを理解したヒルデが僅かに苦笑を浮かべて頷き、ローゼが手続きの書類とも戦いの報告書とも違う別の書類を見て楽しそうに言う。
「そうだよな……。この書類にも驚いたよな……」
ローゼの視線に気づいたサイは彼女が見ていた書類を手に取って呟いた。
「まさか『四国の同盟』だなんて、凄いことを考えるよな……」
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