もう一機のゴーレムトルーパー
「大丈夫なのだろうか?」
王宮の正門前。そこには門を警備をしている二人の兵士がいて、その片方の兵士が不安そうな表情で呟く。
兵士が気にしているのは先程聞こえてきた信号砲のことだ。王都に動けるゴーレムトルーパーがいない時にモンスターの襲撃が起こったという状況に兵士が不安を感じていると、同じく門の警備をしている歳上の兵士が声をかけてきた。
「情けない顔をするな。安心しろ。すでに他のゴーレムトルーパーの所に伝令を送ったらしい」
「それは聞いてますが……間に合うのですか?」
「………」
兵士の言葉に歳上の兵士は答えることができなかった。
フランメ王国には西にあるウォーン砦の他に北方、南方、東方にも国境を監視する砦があって、それぞれの砦に信号砲がある。そして今回聞こえてきたのは南の砦の信号砲らしく、つまりモンスターの襲撃が起こったのはフランメ王国の南方ということになる。
アースレイとフランベルク三世が参加している士官学校の演習は、フランメ王国の北方だ行われており、今から伝令を送っても間に合わないのではないかと歳上の兵士も思っていた。
王国の正門を守る二人の兵士が揃って口を閉ざしてしまったその時、二人の前に一人の少女が凄まじい速さで現れた。
『『……!?』』
その少女の速さは常人ではとても出せるものではなく、恐らく彼女は「超人化」の異能、それも脚力に特化したものの使い手だと二人の兵士は判断した。そして突然異能を用いてここまで来た少女に、二人の兵士は手に持っていた槍を向けて警戒をする。
「止まれ! お前、何者だ!」
「ごめんなさいー。急いでいるんですー。王宮に入れてくれませんかー?」
兵士の言葉に、よく見ればフランメ王国の士官学校の制服を着ている少女は質問に答えず王宮に入れろと言い、その言葉は兵士に強い警戒心と僅かな苛立ちを与えた。
「なっ……!? ふざけるな! そんな事を言われて通すわけがないだろう! それに何者だと聞いて……!」
「っ!? 待て!」
兵士が怒鳴ろうとした時、少女が何者かと気づいた歳上の兵士が慌てて止める。
「……貴女はもしや、サイ・リューラン小佐の妹であるサーシャ様でしょうか?」
「うん。そうだよー」
「………ええっ!?」
歳上の兵士が確認すると少女、サーシャは頷いてそれを聞いた兵士が驚いた顔となる。まさか突然現れたこの少女が、最近現れた新たなゴーレムトルーパーの操縦士の妹だとは思いもしなかったのだ。
「そ、それでサーシャ様は一体どのような要件で? いくらリューラン小佐の妹でもいきなり王宮に入れるわけには……」
「だからー、急いでいるんだってー。……あー、そうだー。だったらこれでどうー?」
『『……!?』』
歳上の兵士の言葉の途中で、何かを思い出したサーシャがポケットから一枚のメダルを取り出して見せると、二人の兵士は揃って驚き息を飲んだ。彼女が取り出したメダルは、自由に王宮を行き来できる許可をフランベルク三世から認められた者の証で、それを見せたサーシャはすぐに王宮に入ることができた。
「そうですかー。モンスターの襲撃が起こったのはー、南方だったんですねー」
王宮に入ってからしばらくした後、サーシャは王宮にある一室で、フランベルク三世から自分の事を知らされている一人の文官から詳しい事情を聞いていた。
「はい……。すでに陛下達の元へ脚力に特化した『超人化』の異能を持つ伝令を送ったのですが、それでも間に合うかどうか……」
「………」
サーシャに詳しい事情を話してくれた文官も外にいた兵士同様に不安そうな表情をしており、そんな文官を見ていた彼女はやがて何かを決意した表情となって口を開く。
「すみませんけどー、王宮にある格納庫までー案内してくれますー?」
「えっ!?」
文官はサーシャの言葉の意味に気づいて不安そうな表情を驚きの表情へと変えた。
王宮にある格納庫。そこはフランベルク三世が乗るリードブルムが保管されている場所だが、今は秘密裏に「もう一機のゴーレムトルーパー」も保管されていた。
「私がー、ドラトーラに乗って行きますからー」
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