ドラトーラ出撃

「それじゃー、南の砦に着いたらー、責任者の人にー、これを渡したらいいのー?」


 王宮の格納庫の前でサーシャは、文官に一枚の書類を手渡された。その書類は彼女の身分を証明するためのものであった。


「はい。サーシャ様とドラトーラの存在を知っている人はまだ極僅かしかいません。ですがその書類には陛下自らの押印がされていますので、それを見せれば疑われることはありません」


「そーですかー。ありがとうございますー」


 いきなり正体不明のゴーレムトルーパーがいきなり現れれば、例えそれが襲撃してきたモンスターを全て倒して自分達を救ってくれた存在だとしても、南の砦の兵士達はサーシャを怪しんで最悪拘束をするかもしれない。その事を理解しているサーシャは、書類を用意してくれた文官に頭を下げて礼を言った。


「それでー、ドラトーラの準備はー?」


「はい。ドラトーラの準備は万全です」


 サーシャの言葉に文官は頷くと格納庫の扉を開く。


 格納庫の中にはドラトーラの警備と整備をしていた数名の兵士と技術者の姿があり、彼らは格納庫にサーシャと文官が入ってくるのに気づくと全員が揃って敬礼をして出迎えてくれた。


 様々な偶然が重なった結果サーシャによって作り出されたゴーレムトルーパー、ドラトーラ。サイの「倉庫」の異能によってイーノ村の遺跡からこの格納庫へと運び込まれてから今まで、リードブルムと同様に国宝の如く大切に整備され磨き抜かれたその装甲は、光を反射して輝いているように見えた。


「おおー。皆さんー、ありがとうございますー」


『『はっ! 光栄です!』』


 自らのゴーレムトルーパーを見事に整備された事にサーシャが感動して、整備をしてくれた技術者達に礼を言うと、技術者達は誇らしげな表情を浮かべた。


 サーシャがドラトーラの下半身の竜の胸部にある操縦室に入り、そこにある操縦席に座ると、操縦室の周囲の壁が外の風景を映し出してドラトーラを見上げる文官の声が聞こえてきた。


『サーシャ様。南の砦への最短ルートなのですが……』


「真っ直ぐ行けばー、速いですよねー」


 文官の言葉を遮ってサーシャが言うと

、文官だけでなく格納庫にいる全員が驚いた顔となる。


『真っ直ぐ、ですか……? いえ、しかし、真っ直ぐ進むルートにはいくつもの村や森等が……』


「私の異能を使えばー、大丈夫ですよー」


「っ! そうか、確かに『浮遊』の異能を使えば……!」


 フランベルク三世からサーシャの素性を知らされていた文官は、すぐに彼女の異能を思い出して納得の表情で呟く。


 手で触れている物質を、それがどんなに大きくて重いものでも自由に浮かせて動かす事ができる『浮遊』の異能。


 この異能を使えば確かに途中にある村や森等の障害物を飛び越えて、最短距離で南の砦に向かうことができる。それを理解した文官は「英雄の妹も英雄か」と小さく呟いてから、ドラトーラを見上げながら敬礼をした。


『分かりました! サーシャ様、ご武運を!』


「はいー。ありがとうございますー」


 操縦室にいるサーシャも向こうには見えていないが文官に敬礼をして返す。そしてその後、一つ大きく深呼吸をしてから自らの出撃を宣言した。


「サーシャ・リューラン、ドラトーラ! 出ますねー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る