走り出すサーシャ

『『………!?』』


 大砲のような音が聞こえてきた瞬間、サーシャとアミーナにカレンの三人は弾かれたように椅子から立ち上がり、窓まで駆け寄ると外の様子を見た。


「今の音、どこからー?」


「流石に方角までは分かりません」


「でも今の音は間違いありません」


 窓の外を見ながら話し合うサーシャ達三人だが、ランだけは唯一話についていけず困惑の表情を浮かべる。


「え? え? 何? 何なの? 今の音がどうかしたの?」


「ランー? 今の音は信号砲だよー?」


 状況を全く理解していないランにサーシャは若干呆れながら端的に説明をする。しかしそれだけだは分からなかったランは首を傾げる。


「信号、砲? 何それ?」


「貴女!? ここに何をしに来たの? 情報を集めるのが目的なら信号砲くらい調べておきなさいよ!」


「アミーナさん、落ち着いてください。……らんさん? ちょっといいですか?」


 ランの態度に苛立つアミーナ。そんなアミーナを落ち着かせたカレンはランに事情を説明する。


「今の音は信号砲。信号砲はモンスターの大群のような災害を報せて救援を要請する緊急信号のことです。サーシャさんのお兄さん……リューラン小佐の婚約パレードの直後にも、フランメ王国では巨大なモンスターの襲撃があって信号砲が使用されました」


「……そういえば何か大きな音を聞いたような気がしたような」


 カレンの説明を聞いてランは思い出すように言う。


「とにかく、信号砲の音が聞こえてきた以上モンスターの襲撃は確実。……そして都合が悪いことに現在この王都には『動かせるゴーレムトルーパーがいない』」


「え? ……ああっ!?」


 深刻な表情で言うアミーナの言葉に、ランは一瞬訳が分からないという顔をした後、すぐにその意味を理解して顔色を青くする。


 今、士官学校では以前アミーナが話していた上級生達による演習が王都から離れた場所で行われていて、それにアースレイとフランベルク三世が参加しているのだ。


 現在フランメ王国で公表されているゴーレムトルーパーは、


 フランベルク三世のリードブルム、


 クリストファーのジェノバイク、


 アースレイのハンマウルス、


 サイのドランノーガ、


 この四機である。ちなみにサイが黒竜盗賊団から取り返したザウレードは、まだ完全に機体が修復できていない上に新しい操縦士も決まっていないので、数には入っていない。


 そしてリードブルムとハンマウルスは先程も言ったように演習に参加中、ジェノバイクは警備任務で西にあるウォーン砦に、ドランノーガはフランベルク三世からの任務でアックア公国にいる。


 つまり信号砲を放ってもすぐにそれに対応出来るゴーレムトルーパーがいないということである。……動かせるゴーレムトルーパーが本当に四機だけならの話であるが。


「ちょっ、ちょっと。それってマズくない?」


「だからそう言っているじゃ……」


「大丈夫だよー」


 顔を青くして慌てるランにアミーナが言い返そうとするが、それをサーシャの声が遮る。


「サーシャさん?」


「私が何とかするからー、皆は先生達にー私は早退するって伝えといてー」


 サーシャはラン達三人にそれだけ言うと、窓から外へ飛び出した。来客室は建物の二階にあって、本来ならそこの窓から飛び出すのは自殺行為なのだが、ナノマシンによって身体能力を強化されているサーシャにとっては何も問題はなかった。


 窓から飛び出したサーシャは危なげなく地面に着地すると、そのまま風のような速さで走り出した。


 サーシャが向かう先は王都の中央による王宮。そこならばきっと信号砲に関する詳しい事情が聞けるだろうし、何より王宮には彼女が今一番必要としているものがあった。

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