実戦的な演習

「ねぇ、アミーナ? アースレイさんと話をすることってできない?」


 朝食を終えて朝の身支度を済ませたサーシャ達四人が士官学校へ向かう途中で、ランがアミーナに尋ねてきた。


「アースレイ叔父様に? 一体何故?」


「ちょっと話しておきたいことがあって。……その、私の『故郷』のことで」


『『………!』』


 聞き返してくるアミーナにランが声を落としてそう言うと、アミーナだけでなく話を聞いていたサーシャとカレンも一瞬目を見開いて真剣な目でランを見る。


「それは、今すぐに話さないといけない緊急の要件なのかしら?」


「うーん……。危険があるかもしれないけど、今すぐに伝えなくちゃいけない話じゃない……と思う」


 アミーナが周りの通行人に怪しまれないように歩きながら聞くと、ランも彼女の隣を歩きながら少し悩んでから答える。そのあやふやな言い方にランは何かを言いたそうな顔をしたが、すぐ気を取り直して口を開く。


「残念だけどしばらくは無理ね。アースレイ叔父様は近いうちに行われる上級生達による演習に参加する予定だから、その準備に忙しいと聞いたわ」


「ああー。そーいえばー、そんな話を聞いたことがあるかもー」


 サーシャがアミーナの話を聞いて士官学校の上級生達が最近妙に気合が入っていたのを思い出し、カレンが首を傾げてアミーナに質問する。


「でも普通に考えれば、士官学校の演習よりもランさんの『故郷』の話の方が重要なのではないですか? だったら少しくらいは時間が取れてもいいはずでは?」


「普通の演習でしたらね。ですが今回の演習は普通ではなく、国王陛下も見にこられるそうなのです」


 カレンの疑問にアミーナが答えるとサーシャもカレンも納得をした。確かにフランメ王国の国王であるフランベルク三世も見に来るとなれば士官学校の上級生達も気合いが入るであろうし、万が一の事態が起こらないように警備を含めた準備を最優先にするのも仕方がないだろう。


「そっかー……。それじゃあ、仕形がないか」


「ええ、ごめんなさいね」


 事情を理解したランにアミーナが頷いてから彼女の方を見る。


「でも貴女の方から『故郷』の話をしてくれたのは嬉しいわ。……一体どんな心境の変化?」


「え? いやぁ、そんな大したことじゃないから。それより今回の演習は普通じゃないって言っていたけど、何か特別なことでもあるの?」


 言葉を濁し話題を変えようとするランだが、アミーナは深く追求することはせず彼女の質問に答えることにする。ただしこの時、彼女の表情はなんとも言えない表情になり、それがラン達三人は気になった。


「アミーナー?」


「それが……今回の演習は極めて実戦的な演習ということらしくて……。まず上級生達が二つの陣営に分かれて模擬戦をして、しばらくしてからゴーレムトルーパーに乗ったアースレイ叔父様がどちらか片方の陣営に攻撃を仕掛けるという予定だそうです……」


『『………』』


 アミーナから聞かされた模擬戦の予定にサーシャ、ラン、カレンが言葉を失う。


 人間の軍隊同士の戦いは、自軍のゴーレムトルーパーが戦場に到着するまで自陣を保つことだ。そして自軍のゴーレムトルーパーが間に合わず、敵軍のゴーレムトルーパーのみが戦場に現れる事態も人間の軍隊同士の戦いではよくあることだ。


 だからその事を考えればアミーナの言う通り極めて実戦的な演習と言える。しかし……。


「私ー。その演習参加したくないなー」


『『………』』


 サーシャの言葉にラン、アミーナ、カレンの三人は頷くのであった。

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