皆のお母さんサーシャ
サーシャの朝は早い。
いつも裸で眠っているサーシャは、朝の日の出と共に目を覚ますと下着と服を着て身支度を済ませ、その後厨房で「四人分」の朝食の支度をする。朝食のメニューは事前にリクエストがない場合、ありあわせの材料で作るので毎朝異なっている。
そして朝食が全て完成するとサーシャは、二階の自室でまだ寝ている三人の居候達を起こすべく二階へと向かった。
「皆ー。朝ごはんできたよー。早く食べないと遅れるよー?」
『『いただきます』』
サイの屋敷の居間でサーシャの作った朝食を前にラン、アミーナ、カレンの三人が言うとサーシャもそれに続く。
「はーい。いただきまーす。あー、それとー、皆の服昨日のうちにー洗ってアイロンをかけといたからさー、後で持っていってー」
そう言ってサーシャが居間にあるソファを指差すと、ソファの上には三人分の折り畳まれた衣服が置かれていた。
「ああ、うん。いつもありがとう、サーシャ」
「本当に助かります、サーシャさん」
「はい。ありがとうございます」
ランがサーシャに礼を言うと、アミーナとカレンも礼を言う。
サーシャがアースレイの頼みを聞いてラン、アミーナ、カレンの三人がサイの屋敷に居候をするようになってすでに半月が経つ。そしてこの半月の間、料理や洗濯等といった家事の全てはサーシャが全て行なっていた。
アースレイの姪で生まれも高位の貴族であるアミーナは、勉学や武術だけでなく貴族としての礼儀作法は優秀ではあったが、家事の類いは今まで関わったことがなかった。
ランは家事をしたことがあるのだが、そのほとんどが「センタッキ」やら「システムキッチン」といった惑星イクスには無い、高度な器具に頼りっきりであったので、現在では家事が得意とはとても言えない状態。
カレンもそれなりに家事の経験があるのだが、手先があまり器用ではないせいか、どちらかと言えば家事が苦手であった。
結果、サーシャが自分と居候三人の家事をまとめてする事になったのである。幸いなのは、彼女が物心のついた頃から村の仕事だけでなく家事を手伝っていたので、早起きも家事もそれ程苦にはならなかった事だろう。
「いやー、なんて言うか……サーシャってば、私達のお母さんって感じだよね?」
「私は皆と同い年ですー。こんなに大きな娘なんかー三人もいりませんー」
ランの冗談をサーシャは自分で作った朝食を食べながら返して、それを聞いていたアミーナとカレンが僅かに笑う。
この居候生活は、間諜であるランが惑星イクスの、正確にはフランメ王国とアイゼン王国の重要な情報を宇宙に報告しないか見張る為のものだ。その為、本来ならサーシャ達四人の間には緊張感に満ちているもので、最初の頃は実際そうだった。
しかしランが宇宙への報告を諦めた事と責任者であるアースレイの方針で、尋問の類いもなくこの半月の間普通の生活を送ったせいか、ランだけでなくサーシャ達も緊張感が薄れて少しずつお互いに気を許すようになり、今の生活を奇妙だと思うと同時に「それほど悪くない」と思い始めていた。
そしてこの居候生活はランに一つの決意を決めさせるきっかけとなるのだった。
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