アースレイのお願い

 サーシャ、アミーナ、カレンの三人が士官学校の来客室でランの話を聞いてから数時間後。サーシャ達はサイの屋敷の居間にいた。


「それでー? これは一体どういうことなんですかー?」


 椅子に座るサーシャが不機嫌そうな表情でデーブルの向かい側で椅子に座っている人物は話しかけると、彼女の前にいる人物アースレイは苦笑しながら口を開いた。


「はは……。まあ、サーシャちゃん。そんなに怒らないでよ」


「別に怒ってませんよー? ただどういうことか聞きたいだけですー」


 怒っていないと言いつつも不機嫌な表情のままのサーシャに、隣に座っていたアミーナが見かねて話しかける。


「ちょ、ちょっとサーシャさん、そんな言い方は……。アースレイ叔父様はゴーレムトルーパーの操縦士でこの国に無くてはならない方なんです。いくら貴方のお兄様がアースレイ叔父様と同じゴーレムトルーパーの操縦士だとしても……」


「ああ、アミーナちゃん。別にいいんだよ。僕は気にしていないからさ」


 ゴーレムトルーパーとその操縦士は、敵国やモンスターから自国を守る最大戦力で、操縦士が持つ権力は国王と同じかそれに準じたものである。その為、ゴーレムトルーパーの操縦士にあるアースレイに無礼としか言いようのない態度を取るサーシャをアミーナは止めようとしたのだが、逆にアミーナの方がアースレイに止められてしまった。


「で、ですがアースレイ叔父様……」


「いいんだよ。……サーシャちゃんはいいんだ」


『『………!』』


 笑みを浮かべながら反論を許さない圧力を放つアースレイに、アミーナだけでなく隣で話を聞いていたカレンとランも気圧されてしまう。そしてサーシャはその様子を見て思う。


(やっぱりー。アースレイさんにも私がゴーレムトルーパー、ドラトーラの操縦士だって連絡がきているみたいだねー。それにこの迫力……凄いなー)


 外見は自分と変わらない年齢で、自分でも「永遠の十七歳」と言っているが、それでも彼は歴戦のゴーレムトルーパーの操縦士なんだとサーシャはアースレイを見ながら思い、同時に苛立っていた気持ちが冷静になっていくのを感じた。


「それでー、そろそろ説明してくれますー? どーして『皆をこの屋敷に居候させる』のかー。ここ、私のじゃなくてお兄ちゃんの家なんですけどー?」


 いくらか冷静になったサーシャは、先程アースレイに言われた用件を問いただす。


 ランが宇宙から来た間諜だと知ったサーシャ達は、カレンの言う通りアースレイにこの事を報告した。それを聞いた彼はサーシャにアミーナ、カレン、ランの三人を彼女が今住んでいるサイの屋敷に居候させてほしいと言い出したのだ。


「もちろんサイ君には後で僕から手紙を送るよ。……まあ、それでも事後承諾になるけどね。僕がここにアミーナちゃん達を居候させてほしいと頼んだのは、ランちゃんの監視のためさ」


「ランの監視ー? ランを監視するだけだったらー、牢屋にでも閉じ込めておけばいいんじゃないのー?」


「そうですね」


「私もそう思います」


「えっ!? ちょ、ちょっとぉ!」


 アースレイの言葉を聞いたサーシャの意見にアミーナとカレンも頷き、ランが慌てた声を出すがこれは全員が無視した。


「宇宙から来た間諜がランちゃんだけだったらそれもアリかもしれないけどね……。でも残念ながら宇宙から来た間諜は彼女以外にも何人もいて、その詳しい人数や何処に潜んでいるかはランちゃんも知らない。……だったらある程度調査されるのはもう仕方ないとして、本当に重要な情報が知られるの防ぐべきだ」


「その為にー、学校もそれ以外の生活もー、この四人で行動してー、ランを見張れってことー?」


 アースレイの言葉から大体の事情を察したサーシャが聞くと、フランメ王国で最高位の権力者の一人が頷く。


「そういうこと。……だからさ? 皆、ちょっと頼まれてくれない? 詳しい説明とか手続きとかは僕がするからさ? ね?」


 そう言って両手を合わせ、可愛らしくサーシャ達にお願いをするアースレイ。


 アースレイはお願いの形をとっているがこれは上官、それも雲の上からの命令であって、この場にいる全員が断ることが出来ず、居候を三人も抱えることになったサーシャは小さくため息を吐くのだった。

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