ランの正体

 度重なる災害によって衰退したと思われていた前文明は、実際には完全に衰退したわけではなかった。


 惑星イクスの周辺の宇宙領域に建造された居住空間。そこに暮らしていた人々は、惑星イクスで起こったモンスターやウィルスによる被害から逃れることができた。しかし地上の文明が衰退したことによって、水や酸素等を初めとする人が生きるのに必要な物資が地上から補給できなくなり、宇宙に生きる人々は大きく混乱した。


 宇宙に生きる人々はなんとか惑星イクスを取り返そうとしたが、モンスターの存在によって何度も行われた惑星イクスへの帰還は失敗に終わる。


 今や惑星イクスに無数に存在して、一度や二度のミサイルの爆撃くらいなら耐えられるモンスターの群れと長時間戦い続けられる兵器はゴーレムトルーパーだけ。だがゴーレムトルーパーの建造の為のナノマシン技術は地上の文明と共に失われていた。


 モンスターとウィルスの脅威に対抗できない宇宙に生きる人々は、惑星イクスへの帰還を諦めて宇宙の居住空間で暮らすことを決める。


 それから数百年後。惑星イクスに僅かに生き残った人類が新たに文明を築きモンスターと戦い生き延びているのを確認した宇宙に生きる人々は、再び惑星イクスへの帰還を計画する。


 宇宙に生きる人々は、まず惑星イクスの調査を始めた。現在のモンスターの戦力に人類の文明を調べることで帰還計画の方針を決めるためである。


 調査のために惑星イクスへと降り立った人員には軍隊と同じ役割を持つ人の他に、自ら志願した民間人も多数いて、ランもその一人であった。


 ラン達、自ら志願した民間人達は現地の住民達と溶け込んで同じ生活を送りながら、そこで分かったことを定期的に報告することを命じられた。そしてランは事前の調査でイーノ村という、自分のいるフランメ王国の辺境の村に同じ名前の少女がいるのを知り、それを利用してイーノ村出身者と偽りフランメ王国の士官学校へ入学したのだった。


 最初は順調であった。辺境の村の出身者と聞くと明らかに見下してくる者は多くいたが、その代わり一般常識に関する授業や会話で上手く答えられなくても「辺境出身者だから」という理由で怪しまれないし、何故か教員達はイーノ村と聞くとランに深く関わるのを避けた。


 ラン達民間人の調査員は決められた調査期間を過ぎると、宇宙にある居住空間へ帰るかそのまま現地の住民として生活していくことを選ぶことができる。そして調査の最初がそれなりに好調であったため、調査期間を何事もなく終えられるとランは思っていた。しかし……。


「ふ~ん? ランってばー、宇宙から来た人なんだー? それって宇宙人ってことになるのー?」


 現在ランは三人の女性に囲まれて自分の正体について喋らされていた。

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