サーシャからの誘い

 アースレイと会話をしてから二日後。サーシャは、自分に取り入ろうとする生徒達の媚びるような声や、サイの影に怯える教員達の恐れるような視線を、なんとか普段通りの表情で受け流し午前の授業を受け終えた。


 そして昼休みが始まるとすぐに二人の女学生がサーシャの元にやって来て声をかけてきた。


「サーシャ・リューランさん。少しよろしいですか?」


 サーシャに話しかけたのは紅い髪を短く切り揃えた長身の女学生で、その後ろには薄い茶色の髪を頭の両端で縛ったサーシャよりも背が低い女学生がいた。


「初めまして。私はアミーナ・キールマン。アースレイ・トールマンの姪です。そしてこちらが……」


「カレン・リッターナです。アイゼン王国から来た留学生です。よろしくお願いします」


 紅い髪の女学生アミーナがまず自己紹介をして、それに続いて茶色の髪の女学生カレンも自己紹介をする。


 アイゼン王国はフランメ王国の北にある同盟国である。それ故に両国が互いに留学生を送ることは過去にも何度かあり、それほど珍しいことではなかった。


 そしてサーシャは二人の名前をすでに、二日前にアースレイより聞かされて知っていた。


 アミーナ・キールマンとカレン・リッターナ。


 この二人は二日前にアースレイから頼まれた「仕事」の協力者である。近いうちに二人の方から接触してくるとアースレイから聞いてはいたが、思ったより速い行動に内心で少し驚きつつ、サーシャもアミーナとカレンに自己紹介をする。


「こちらこそ初めましてー。サーシャ・リューランですー。それでー、一体何かご用ですかー?」


「いえ、サーシャさんのことはアースレイ叔父様から聞いていまして、お昼を食べながら『色々』とお話したいな、と」


 言葉の一部をさりげなく強調するアミーナの言葉に、サーシャは小さく笑みを浮かべて頷く。


「いいですよー。その代わりー、もう一人『誘いたい人』がいるんですけどー、その人もいいですかー?」


 サーシャも言葉の一部をさりげなく強調して言うと、今度はアミーナとカレンの二人が小さく笑みを浮かべて頷いた。


「もちろん構いませんよ。それじゃあ時間も勿体ないですから早く行きましょう」


「ええ」


「そうだねー」


 カレンが言うとアミーナとサーシャはそれに同意して彼女達三人は、サーシャを取り囲んでいた他の生徒達を置いて教室を後にした。



「ランー。久しぶりー。ちょっと時間あるー?」


「……………え?」


 丁度一人で食堂へ行こうとしていたランは、突然現れて声をかけてきたサーシャに呆けた表情となった。


「もしよかったらさー。私達と一緒にお昼食べに行かないー? 色々話したいこともあるしさー」


 後ろに見覚えのない女学生を二人連れて自分を誘ってくるサーシャにランは首を傾げる。


「お昼はいいけど……話したいことって?」


「色々あるじゃないー? ほらー、私達『同じイーノ村出身』なんだからさー」


「…………………………!?」


 サーシャの口から出た「イーノ村」という言葉に絶句して顔を青くした。

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