ランの一人言
かつて惑星イクスには高度に発達した文明があり、惑星イクスの人類に多くの恩恵を与えていた。
宇宙に築いた居住空間。
ナノマシンの技術を用いた高性能な機械類。
遺伝子調整によって発現した超能力という人類の新たな可能性。
これらの文明の恩恵により惑星イクスの人類は長い間豊かで平和な日々を送っていたのだが、その日々はある日突然終わりを迎えた。
惑星イクスに「モンスター」と呼ばれる凶悪な生物の群れが現れて、惑星イクスの人類に牙をむいたのだ。
惑星イクスの人類は総力をあげてモンスターの群れと戦い、そのほとんどを滅ぼすことに成功したのだが、モンスターとの戦いは苛烈を極めていて人類が負った被害は決して少なくなかった。しかし不幸はこれだけでは終わらず、更なる不幸が惑星イクスの人類に起こった。
モンスターとの戦いの直後に新種の人体に害を与えるウィルスが発生して惑星イクス全土で猛威を振るったのだ。
モンスターとの戦いで多くの人材や研究施設を失った惑星イクスの人類にはウィルスのワクチンを開発する余力なんてなく、多くの人間がウィルスによって死んでしまう。それによって惑星イクスの人類は文明を維持できないくらいに人口を減らし、かつては別の星まで行ける程繁栄した文明は衰退してしまい、辛うじて生き残った僅かな人々が一から新たな文明を築いた。
これがこの惑星イクスの歴史であるのだが、あくまで「惑星イクスでの歴史」である。
最初に説明したが惑星イクスにかつて存在した高度な文明、現在で言う「前文明」では宇宙に人類が住める居住空間を築いていたという。そして当然ながらこの宇宙にある居住空間では多くの人々が暮らしていたはずなのだが……。
はたして彼らは前文明と共に滅びてしまったのだろうか?
X X X
「近々モンスターのサンプルを捕獲して『本国』に送るので、作戦ポイントの近くにいる者は可能ならば隠蔽活動に協力するように……って、無理に決まっているでしょ」
人々が寝静まった深夜。フランメ王国の士官学校の学生寮にある自室で、ランは寝台に横になり額に右手を当てた状態で呟いた。幸いにもこの部屋にはラン以外の人間はおらず、隣の部屋にいる住民も今はもう眠っているので、彼女は右手を額から離すと愚痴を漏らした。
「まったく……。向こうの人達は私達のことをなんだと思っているの? 私達は地上での生活に精一杯で、権力者でもないっての。そもそも私達は情報さえ集めとけばいいって言ったのはそっちでしょう?」
そこまで言ったところでランは上半身を起こし、窓から見える夜空へと目を向けた。
「はぁ……。『向こう』に帰りたい……とまでは言わないけど、こっちも色々と大変なのね。最初はどこまでも自由でのびのびできる場所だと思っていたけど、実際に来てみるとモンスターがいて危険な上に色々と不便だし……。生の食材を使った食事が美味しいのがせめてもの救いかな?」
しばらく窓から見える夜空を見つめた後、ランは再び寝台に横になって布団を頭から被る。
「はぁ、ヤメヤメ。向こうの要請もどうせ無理だから無視無視。明日も朝が早いんだからもう寝ないと」
そう自分に言い聞かせて眠りにつこうとするラン。この時の彼女は、明日も今日のように相変わらず酷い銃の腕前を教官を叱られながらも、それなりにのんびりとした楽しい日が続くと思っていた。
しかしそんなランの予想は大きく覆されることとなる。
「ランー。久しぶりー。ちょっと時間あるー?」
数日前に偶然知り合った「英雄の妹」と呼ばれる少女サーシャがランに話しかけてきたことによって。
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