サーシャの憂鬱
「はぁー……」
士官学校の入学手続きを完了させて、自分と同じイーノ村の出身だと言う女性ランと知り合ってから三日後。サーシャは自分一人しかいないサイの屋敷の広間でため息を吐いていた。
屋敷の広間で裸の姿のまま椅子に座っているサーシャは、天井を見上げるともう一度ため息を吐く。
「はぁー……。学校、行きたくないなぁー……」
自分の力を皆の為に役立てたいと思い士官学校に入学したサーシャだったが、実際に士官学校に通い初めると早くも憂鬱な気分になっていた。しかしこれには理由があった。
サーシャは最近現れた新たなゴーレムトルーパーの操縦士サイ・リューランの妹ということで、当然ながら士官学校で注目の的になっている。
だから登校時や下校時、そして授業が終わった後の休憩時間などでは多くの学生達が、サーシャに取り入ろうと彼女の回りに群がってくる。そして教員達はサイの事もあって、まるで腫れ物を扱うようにサーシャに接して、彼女に取り入ろうとする他の生徒達に関して触れようとしない。
その様な学校生活が続けば憂鬱な気分になっても仕方がないだろう。サイから士官学校の話を聞いていたサーシャは、自分も陰湿な虐めを受けることも覚悟していたのだが、まさかそれとは全く逆の展開になるとは予想していなかった。
「行きたくないなぁー……。でもそう言うわけにもいかないんだよねー……」
壁に備え付けられている時計を確認したサーシャは、着替えをするために浮かない顔で自分の部屋に向かうのだった。
「はははっ。サーシャちゃんは今日も人気者のようだね」
サーシャが憂鬱な気分で士官学校に投稿してから数時間後。彼女は士官学校の校内にある来客室にいた。
来客室にはサーシャの他にもう一人、先日彼女の兄の同僚だと言ってきたゴーレムトルーパーの操縦士アースレイがいて、笑いながら言う彼にサーシャは僅かに不愉快そうな表情となる。
「笑いごとじゃないですよー。私は全く相手にしていないのにー、あの人達ったら全く諦めないんですよー」
「まあ、それはしょうがないんじゃない? サイ君がゴーレムトルーパーの操縦士で、その上フランメ王国とアックア公国のお姫様達の婚約者だけど、家臣や部下がいないのは有名だからね。サーシャちゃんのお気に入りになって、そのコネでサイ君の下につければ将来は安泰だから、彼らも必死になるさ」
「……お兄ちゃんだったらー、胸の大きな子が胸元を大きくはだけさせて見せればー、家臣にも部下にもなれると思いますけどー?」
アースレイの言葉に、精神的に疲れているサーシャは自分の兄に対してかなり酷い意見を口にして、これには流石のアースレイも苦笑を浮かべた。
「はは、は……。ま、まあ、それはともかく『彼女』の方はどうだった?」
苦笑を浮かべながら話題を変えるアースレイにサーシャは少し考えてから質問に答える。
「彼女……ランのことですよねー? ランだったらー、上手く回りに溶け込めていると思いますよー」
「思うって、彼女とは話せていないの?」
「無理ですよー。さっきも言ったようにー、私たくさんの人に囲まれているんですよー。そんなので話せるわけがないじゃないですかー?」
サーシャに言われて今度はアースレイの方が少し考えてから、良いことを思いついたような表情を浮かべる。
「そうだね。それじゃあいっそのことサーシャちゃんから彼女に話しかけてみようか」
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