サーシャの朝
時はサイ達が任務でアックア公国へと向かった数日後まで遡る。
「……ん。もう朝ー?」
フランメ王国の王都にあるサイの屋敷。そこに用意された自室で目を覚ましたサーシャは、衣服どころか下着も身につけていない裸で寝台から降りた。
サーシャは寝る時は衣服の類いを身につけない主義で、寝台から降りて身体を動かす度にピオン達程ではないが、充分に巨乳と呼べる豊かな乳房が柔らかく揺れる。
「少し早いけど朝ごはんにしようかなー?」
窓から太陽を見たサーシャは服を着る……ことなく、裸のまま部屋の外に出る。この様な格好、両親や将来自分の義姉になる兄の従者達に婚約者達、そして何より巨乳とみれば実の妹にすら欲情する兄がいる時では絶対しないのだが今だけは別だ。
現在この屋敷にはサーシャ一人しかいない。本来なら伯爵となった貴族の屋敷には執事やら侍女等を雇い入れるべきなのだが、今まで平民同然の暮らしをしてきたサイや、寮での一人暮らしが長かったクリスナーガとブリジッタは、特に使用人を屋敷に雇い入れる必要を感じていなかったのだ。
そのためサーシャは一人でいられる時間を使い、裸のまま顔を洗った後で昨日のうちに下ごしらえをしていた朝食を食べて、奇妙な解放感を感じていた。
「こういう朝もいいよねー。お兄ちゃん達、しばらく帰ってこなくてもいいかなー?」
食後に王都で買った最近お気に入りの果実水を飲みながら自分の欲望を口にするサーシャ。この時彼女の口から一筋の果実水がこぼれ、剥き出しの左の乳房まで伝う姿は、未成年の幼さと同時に妖艶さを感じさせた。
「それにしてもー、何だか夢みたいー」
サーシャは果実水をもう一口飲むと、これまでの暮らしを思い出しながら呟いた。
一年くらい前までは自分がこの様な暮らしをするだなんて、夢にも思っていなかった。
以前のサーシャの実家は男爵家と言えば聞こえはいいが、結局は辺境にある寒村の村長に過ぎなかった。だから自分は軍に入隊した兄からの手紙を楽しみに、異能を使ってイーノ村の仕事を手伝い、いつかは村で年の近い男の元へ嫁入りするのだとばかり思っていた。
しかしサイが実家の蔵に隠されていた前文明の遺跡からピオンとドランノーガを発見してから、彼とサーシャ達の生活は変わっていくことになる。サイはドランノーガの力で功績を挙げると瞬く間に出世し、今ではフランメ王国の王族とアックア公国の公女両方を婚約者にする英雄で、自分はその英雄の妹だ。
こんな未来、とてもではないが予想できるはずもない。
「人生って何が起こるか分からないなー」
サーシャはしみじみとそう呟くと残っていた果実水を飲み干し自室へ戻った。そして自室で彼女は軍服に似ている服、フランメ王国の士官学校の制服を着る。
今日はサーシャが初めて士官学校へと行く日であった。
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