校内見学

「おおー。ここがお兄ちゃんが通っていた学校ねー」


 フランメ王国の士官学校の校舎内でサーシャは周囲を見回しながら呟いた。


 今日サーシャは入学に必要な書類の提出をするために士官学校に来ていた。そして入学のための手続きを全て済ませた彼女は、かつて兄が三年間通って、これからは自分が通うことになる士官学校を見て回っていたのだった。


「それにしてもー、一体何処を見て回ればいいのかなー?」


 一応校内を見て回る許可は取ってあるのだが、案内をしてくれる人がいないため何処を見ても同じ場所に見えるサーシャは首を傾げた。


「というかー、あそこまで怖がることはないんじゃないのー?」


 サーシャは士官学校の教員達が自分に向けてきた目を思い出しながら一人呟く。士官学校の教員達は、最初から最後まで入学の手続きに来た彼女を恐怖の目で見ており、彼女はその原因が自分の兄であることを理解していた。


 この士官学校はつい最近まで、戦闘系の異能の使い手か有力貴族や軍人の家系の出身者のみを優遇してきた。それにより戦闘系の異能を持たず名ばかりの男爵家の長男であったサイは、士官学校にいる間学生だけでなく教員達からも冷遇されていたのだ。


 しかしサイは士官学校を卒業すると、ゴーレムトルーパーを手に入れて瞬く間にフランメ王国の英雄と呼ばれるまでに出世。更に在学中に彼を最も見下していた幼馴染みは、罪に問われて現在牢獄にいる。


 これらを知った士官学校の教員達は、サイの怒りを買うのを恐れ、彼の妹であるサーシャに恐れの感情を抱いていたのだった。彼女が今こうして誰の案内もなく、一人で士官学校を見て回っているのもそれが理由である。


 確かにゴーレムトルーパーの操縦士となったサイは、フランメ王国の軍部で最上位の権力を持ち、かつて自分を冷遇してきた士官学校の教員達をまとめて解雇処分にすることもできるだろう。最も見下してきた幼馴染み、アイリーンが牢獄に送られた原因もサイにあるかもしれない。


 その事を考えれば士官学校の教員達がサーシャを恐れるのも分かるが、それでも彼女は士官学校の生徒の一人なのだ。士官学校の教員達が揃って学生一人を恐れすぎるのはどうかとサーシャは思った。


「大丈夫かなー、この学校。……まあ、いいかー」


「あれ? 貴女、こんなところで何をしているの?」


 サーシャは一人呟いて気を取り直すと、再び士官学校の校内を見て回ろうとする。するとその時、背後から若い女性の声が聞こえてきた。背後を振り替えると、そこには彼女と同じ士官学校の制服を着て模擬戦用の小銃を両手で抱えた一人の女性が立っていた。

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