逃げた理由

 モンスターが人間等の生き物や他のモンスターを殺して食べる光景はよく見られるが、実のところモンスターは生きるために食事をあまり必要としていない。


 本来生物兵器として前文明によって開発されたモンスターは、体内に栄養素を生み出す微生物が生息している他に、植物のように光合成をしたり栄養を無駄なく長期間溜め込む能力を持っている。それによってモンスターは最小限の栄養を摂取するだけで、その身体を維持することができ、モンスターにとって食事とは、ほとんどが自らの本能を満たすための行為にすぎない。


 亀のモンスターが猪に似たモンスターの血肉を求めたのも自らの本能、嗜好を満たすためで、亀のモンスターにとって猪に似たモンスターは好みの「オヤツ」みたいなものだった。毎年この時期になると何処からか現れる猪に似たモンスターが、自分の縄張りの近くにやって来たのを知って、いつ食べようかと楽しみにしていた時に「それら」は現れた。


 陸の上で暮らしている、数は無数にいるが肉の量は少ない上に味も薄く、食べる価値もない小さな種族人間


 小さな種族人間が、猪に似たモンスターを横取りしようとしているのを見た亀のモンスターは、思わず怒り海から陸に出た。小さな種族は臆病だ。自分が姿を表して少し脅かしてやればすぐに逃げ出すだろうと思っていたし実際に逃げ出したのだが、そこに今まで気づいていなかった二つの巨大な影が亀のモンスターの前に現れた。


 亀のモンスターよりも巨大な黒い獣らしきものドランノーガ緑の獣らしきものヴァイヴァーン。この黒い獣らしきものと緑の獣らしきものは、小さな種族人間の飼い主か何かなのか、小さな種族を守る仕草をみせて亀のモンスターに戦いを挑み、亀のモンスターを驚愕させた。


 黒い獣らしきものドランノーガは何やら光のようなものを放って僅かとはいえ亀のモンスターの甲羅をヒビをいれて、緑の獣らしきものヴァイヴァーンは自分を殺しうる毒を持っていたのだ。


 猪に似たモンスターの血肉は確かに魅力的だ。しかしそれでも得体の知れない黒い獣らしきものドランノーガ緑の獣らしきものヴァイヴァーンと戦って、万が一の危険が起こるのを避けたい亀のモンスターは猪に似たモンスターを諦めて海へ帰ることにした。


 そしてそれ以来亀のモンスターは小さな種族人間を警戒することにした。小さな種族は何の脅威にもならないが、下手に攻撃して飼い主である黒い獣らしきものドランノーガ緑の獣らしきものヴァイヴァーンが出てきてはたまったものではないからだ。


 幸いにも小さな種族人間は海に出てくることは滅多にない。猪に似たモンスターは自分の縄張りにやって来て小さな種族がいない時に食べればいい。


 そう考えた亀のモンスターは、小さな種族人間を見かけたら海の中に隠れるようになり、小さな種族の集団アックア公国は何度も海岸に調査のための人員を送るのだが亀のモンスターを発見することはできなかった。

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