予想外の行動
「ヴァイヴァーンにそんな機能があったなんて……。これならいけるか?」
『愛しのマスター。油断は禁物です』
ヴァイヴァーンが亀のモンスターにつけた傷が治らないのを見てサイが呟くと、四人のホムンクルスの女性の中で最も慎重な性格をしているヒルデが小画面の中から話しかけてきた。
『確かにヴァイヴァーンの攻撃は有効のようですが相手はモンスター。最後まで何をしてくるか分かりません』
「……!」
まるでサイに忠告をするヒルデの言葉が聞こえていたかのように亀のモンスターが行動を開始した。
亀のモンスターは口を大きく、顎が外れているのではと思うくらい開くと、ヴァイヴァーンの毒を受けた自分の脚の根本に噛みつき、いとも容易く脚を噛みちぎり切り落とす。それによって断面から大量の血が流れ出たのだがその血もすぐに止まり、続いて新たな脚が生えた。
「……すまなかったヒルデ。お前の言う通りだった」
モンスターの異常なまでの生命力を忘れたつもりはなかった。だが毒に侵された脚を自ら噛み切り、その後脚を再生させてみせた亀のモンスターの姿に、サイはモンスターが人類の常識の通じない相手であると再認識してヒルデに謝罪した。
『やはり一筋縄ではいかないか……。だが毒の優位はまだ崩れていない。サイ、お前達はドランノーガの武装で亀のモンスターの動きを止めろ。その隙をついて再びヴァイヴァーンで毒を送り込む』
亀のモンスターの行動を見てもビアンカは動揺することなく指示を出し、それにピオンが頷いた。
「そうですね。私もそれしかないと思います。幸いにも皆さんの避難も完了したみたいですから、これならドランノーガが全力を出しても大丈夫でしょう」
ピオンの言う通り砲兵隊と補給部隊は安全圏まで退却していて、今ならば先程以上の出力の武装で亀のモンスターを攻撃できる。
「………」
ドランノーガとヴァイヴァーンが再び攻撃しようとしているのを感じ取った亀のモンスターは、二機のゴーレムトルーパーを交互に見た後、六本の脚を曲げて身を低くした。
「っ!? コイツ、またあの棘を?」
『ドランノーガ! 注意しろ!』
亀のモンスターがこの体勢をした後、甲羅の棘を放って猪に似たモンスター達を殺した。それを見ていたサイとビアンカは、次も棘を放ってくると警戒をしたのだが、亀のモンスターが次にとった行動は二人の予想とは異なっていた。
「………」
六本の脚を曲げて身を低くした亀のモンスターは次の瞬間、信じられない跳躍力でその巨体を空高く飛ばしてドランノーガとヴァイヴァーンから離脱した。その予想もしなかった行動にサイ達は、ドランノーガの武装で攻撃することも忘れて、ただ見ていることしかできなかった。
空高く跳んだ亀のモンスターは、最初に現れた時のようにその体を回転させ、砲弾のように移動すると海岸付近に着地した。そしてそのまま亀のモンスターは海の中に入っていくと姿を現さなくなった。
「……もしかして逃げた、のか?」
「そうかもしれませんね」
亀のモンスターが海に入って姿を消してからしばらくした後、サイが海を見ながら呟くとそれにピオンが同意する。
そしてサイ達は念のために一日周辺の海岸を警戒することになったのだが、結局亀のモンスターが現れることはなかった。
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