相性の良い相手
『では……。行くぞ、ヴァイヴァーン!』
『………!』
ビアンカの声に答えてヴァイヴァーンがその巨体を加速させる。ヴァイヴァーンの下半身の蛇は、まるで野生の蛇のように右に左にと不規則な、それでいて高速な動きをとって亀のモンスターに近づく。そして……。
『喰らいつけ!』
『………!』
至近距離まで近づいたところでヴァイヴァーンの下半身の蛇が、亀のモンスターの六本ある脚に喰らいつき肉を噛みちぎる。しかしヴァイヴァーンが噛みちぎった傷は、亀のモンスターからすればかすり傷のようなもので、その傷もすぐに痣すら残さず治ってしまう。
「効いてない!」
『ああ、そうだろうな』
ヴァイヴァーンが亀のモンスターにつけた傷がすぐに治ったのを見てサイが思わず叫ぶと、ビアンカはそれに当然のような口調で返して亀のモンスターから距離を取る。
『今のとこれからするのはただの前準備だ。……ヴァイヴァーン、「精製」を開始しろ』
『………!』
ビアンカが冷静な口調でサイ達に説明してから自分のゴーレムトルーパーに命令を出すと、ヴァイヴァーンの下半身の蛇が両目から怪しい光を放った。
『これからが本番だ。ヴァイヴァーン!』
『………!』
ビアンカの命令に従い、再びヴァイヴァーンが亀のモンスターに向かって突撃して、下半身の蛇で噛みつく。ここまでは先程までと全く同じで、これでは攻撃の方も同様に効果が無いと思われたのだが……。
「……!? ーーーーー!」
ヴァイヴァーンの下半身の蛇が亀のモンスターに脚に噛みついた瞬間、亀のモンスターの口から怒りや攻撃の咆哮とは違う、まるで悲鳴のような鳴き声が上がった。
「今度は効いた……?」
「どういうことですか? さっきと同じただの噛みつきではない?」
予想外の出来事にサイとピオンは思わず驚きの表情となって呟く。そして驚いたのは二人だけではなく、ヴィヴィアンにヒルデとローゼも驚き、今まで必死に退却をしていた砲兵隊と補給部隊の皆も、亀のモンスターが上げた悲痛な悲鳴に動きを止めた。
『フッ……。これがヴァイヴァーンの真の力だ』
周りの反応にビアンカは、ヴァイヴァーンを操作して再び亀のモンスターから距離を取ってから、自慢気な笑みを浮かべた。
『ヴァイヴァーンは確かにそれほど強力な武装はなく、ゴーレムトルーパー同士の戦いでは一歩劣るかもしれん。だがヴァイヴァーンの真価はモンスターとの戦闘にこそある』
『………』
ビアンカの説明を補足するかのようにヴァイヴァーンの下半身の蛇が口を開くと、そこから見える鋼鉄の牙は亀のモンスターの血とは違う、銀色の液体で濡れていた。
『このヴァイヴァーンは、モンスターの血肉を喰らうことでそのモンスターにのみ効果を発揮する猛毒を精製する機能を持つ「対モンスター戦特化型」のゴーレムトルーパーだ』
「毒? 対モンスター戦特化型?」
サイがビアンカの説明を聞いて亀のモンスターの脚を見ると、今度のヴァイヴァーンにつけられた傷は一向に治る気配を見せず、むしろ周辺が腐り傷口が広まっていた。
『ドランノーガの攻撃に耐えた防御力は見事だが、毒に対する耐性はそれほど高くないようだな。……どうやらお前は私とヴァイヴァーンにとって相性の良い相手のようだ』
ヴァイヴァーンが精製した猛毒が通用しているのを確認して、ビアンカは亀のモンスターに向けて不敵な笑みを浮かべた。
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