相手の悪い相手

『ウォーン砦で戦ったモンスターも巨大だったけど、この亀も巨大ですね』


『そういえばそうでしたね』


『モンスターってこれくらいのサイズが標準なのでしょうか?』


「馬鹿を言うな。これがモンスターの標準だったら人間なんてとっくの昔に絶滅しているよ」


 ドランノーガの操縦室の壁に映る小画面の中でヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼが喋るとサイがローゼの言葉を否定した。


「どういうわけか強力なモンスターは大陸の西側『暗黒領域』に集まって縄張り争いをしているらしい。ウォーン砦で戦ったモンスターもこの亀も、暗黒領域に出没するレベルの怪物モンスターの中の怪物モンスターだ」


 サイが亀のモンスターから目を離さずに説明をしていると、亀のモンスターは六本の脚を曲げて甲羅の腹を地面に着けた。それは亀のモンスターが次に行う「攻撃」の前準備であった。


「っ! マスター!」


「ああ、分かっている」


 相手の僅かな動作から亀のモンスターが何かを仕掛けてくるのを察したピオンが注意をして、サイも目の前のモンスターがどんな行動をとってもすぐに対応できるよう構える。


「ーーー!」


 亀のモンスターが咆哮を上げると、甲羅に生えていた無数の棘が全て勢い良く天に向かって放たれた。そして天に放たれた棘はすぐに落下を始め、それらはドランノーガ……ではなく、いつの間にかその背後に回り込みこの場から立ち去ろうとしていた二十匹程の猪に似たモンスターに雨のように降り注いだ。


『『……………!?』』


 逃げようとしていた猪に似たモンスター達は、亀のモンスターが放った棘によって一匹残らず刺し潰されて絶命する。その光景を見ていたサイは、今日で何度目になるか分からない驚きの表情を浮かべた。


「あんなことも出来るのかよ、あの亀?」


「これでは迂闊に飛ぶことはできませんね」


 亀のモンスターの甲羅にはすでに新しい棘が生えていて、ピオンが厳しい表情で呟く。


 もしドランノーガが空を飛んでいる時にあの棘を使われたら、流石にドランノーガの重装甲は簡単に貫けないだろうが、それでも回避に専念せねばならずまともに攻めることはできないだろう。それに加えて亀のモンスターにはあの驚異的な跳躍力があるので、ピオンが言う通り空中戦を仕掛けるのは悪手でしかない。


『ドランノーガとは相性が悪い相手のようですね』


『しかし相変わらず狙いはあの猪に似たモンスターのようですし、こちらから攻撃する必要はないのでは?』


『……いえ、そういうわけにはいかないようですよ』


 小画面の中で話すヴィヴィアンとヒルデに、同じく小画面の中のローゼが指摘する。すると彼女が言った通り、亀のモンスターは別の猪に似たモンスターと戦っているヴァイヴァーンの方にと視線を向けていた。


 亀のモンスターの目的はあくまで猪に似たモンスターを食べること。だからドランノーガよりも、自分の獲物を横取りしようとするヴァイヴァーンを先に攻撃しようと亀のモンスターは動き出し、サイとピオンはそれを止めるべく行動をする。


「させるか! ピオン、合わせろ! カロル・ブラキウム!」


「了解しました! カロル・ディギトゥス!」


『………!』


 サイとピオンの指示によってまずドランノーガの下半身の竜が前腕部の砲口から熱線を放ち、それに続いて上半身の戦士が両腕から炎の弾丸を撃つ。熱線と炎の弾丸は、亀のモンスターの巨体のほとんど同じ箇所に命中して爆発を起こす。


 破壊力に優れるカロル・ブラキウムが当たった箇所にカロル・ディギトゥスの追撃。通常のモンスターやゴーレムトルーパーならこれだけで大きなダメージを期待できるのだが……。


 爆発の煙が晴れて現れた亀のモンスターは、甲羅に小さなヒビが入っているだけでほとんど無傷であった。

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