望まぬ戦闘
「それでマスター? あの亀、一体どうするのですか?」
最初は亀のモンスターの行動に驚いていたが、時間が経って冷静になったピオンが聞いてくる。
あの巨体と海岸からここまで一気に跳んできた跳躍力は脅威ではあるが、亀のモンスターはサイ達に攻撃を仕掛ける様子は今だ見られなかった。むしろ猪に似たモンスターの群れを食べて、見ようによってはこちらの任務を手伝ってくれているようにも見える。
サイもその点を分かっているので、外部音声でヴァイヴァーンに乗っている今回の任務の責任者であるビアンカに意見を求めた。
「ビアンカ元帥。亀のモンスターですがどうしますか? 戦いますか?」
『放置だ。こちらから戦いを挑めば我々はともかく砲兵隊と補給部隊に被害が出る』
サイの質問にビアンカが即答する。そして被害が出ると断言したことから考えて、自分に問いかける形で未来を限定的に予知する「解答」の異能をすでに使っているようだった。
『幸いあの亀は食事に来ただけのようだ。ならば私達は亀は無視して残ったモンスターの群れを叩く』
ビアンカの言葉にサイが周囲を見回せば、亀のモンスターの攻撃から逃れた猪に似たモンスターが散り散りに走り出していた。これを見逃せば砲兵隊や補給部隊に被害が出るだけででなく、人里に辿り着く危険もある。
「分かりました。皆、猪のモンスターだけ攻撃をするぞ!」
『『はい!』』
サイの指示にピオンを初めとする四人のホムンクルスの女性達が返事をして、ドランノーガとヴァイヴァーンの二機が猪に似たモンスターに向けて武装を向ける。するとその時……。
「ーーーーー!」
亀のモンスターが再び雷のような咆哮を上げ、二機のゴーレムトルーパーに明らかに敵意に満ちた眼を向けてきた。
「な、何だ?」
「獲物を横取りするなと怒っているのでしょうか?」
亀のモンスターの咆哮に驚くサイにピオンが答えると、サイは苛立ち舌打ちをする。
「チッ! だったらさっさと食えばいいのに。もう食べ終わるのを待ってなんかいられないぞ!」
『サイ! ドランノーガでその亀を食い止めろ! モンスターの群れは私が殲滅する! その方が被害が少ない!』
自身の「解答」の異能で被害が最小限の選択を確認したビアンカがサイ達に指示を出す。
ビアンカが「解答」の異能で見た「ドランノーガにモンスターの群れの殲滅を任せた場合の未来」では、亀のモンスターが空中からカロル・ディギトゥスを放つドランノーガを叩き落とそうと例の尋常ではない跳躍力で空に跳び、落ちてはまた跳躍するのを繰り返していた。こうして言うだけなら間抜けな光景が思い浮かぶかもしれないが、彼女が見たのは隕石が何度も降り注ぐような大災害である。
「了解しました!」
「………」
サイがビアンカに返事をしてからドランノーガを亀のモンスターの前に着陸させると、亀のモンスターもサイ達が乗るドランノーガを今倒すべき敵と認識して睨み付ける。
「全く……。予定が完全に狂ったな……」
予想外の敵との望まぬ戦闘にサイは思わず呟いた。
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