異常事態

「撃て撃て! 撃ち続けろ! 俺達の役目はモンスターの引き付け役だが、少しでもモンスターにダメージを与えるんだ!」


 砲兵隊ではビークポッドが、自分の担当する大砲の後ろで部下達に、砲撃音に負けないくらいの大声で指示を飛ばしていた。そうしている間に今回の標的である猪に似たモンスターの群れがこちらへ向かって疾走してくる姿が見えてきて、それを見たビークポッドの額に一筋の冷や汗が流れた。


(作戦でビアンカ元帥とサイのゴーレムトルーパーが来るのは分かっているが、それでもやはり恐ろしいな)


 モンスターに対抗できる戦力はゴーレムトルーパーのみという常識を生まれた頃から教えられてきた彼らの心境は、まさに巨大な台風に向かって石を投げつけているようなものだろう。着実に近づいてくるモンスターの群れという災害を前に、ビークポッドを初めとする砲兵隊の兵士隊は自分達の仕事をこなしながらも恐怖で体を震わせていた。


 ビークポッド達、砲兵隊の砲撃は確かにモンスターの群れを引き寄せる囮の役割を果たしていたが、モンスターに少しでもダメージを与えることは期待できなかった。こちらに近づいて来るモンスターの群れに、砲兵隊の兵士の何人かが恐怖の限界を迎えようとしたその時、モンスターの群れの横からビアンカの乗るヴァイヴァーンが、そしてその反対方向からサイ達の乗るドランノーガが姿を現す。


『『おおおっ!』』


 ドランノーガとヴァイヴァーンの姿を見た砲兵隊の兵士達が一斉に歓声を上げる。二機のゴーレムトルーパーの登場時、彼らは自分達の勝利を信じており、その予想は間も無く事実となるはずだったのだが、この直後に誰も予想もしなかった異常事態が起こったのだった。




 海の中から「ソレ」は現れた。


 急に陸の方から地鳴りみたいな音がしてきたので「ソレ」が海中から顔を出して陸の方を見てみると、小さな生き物達が猪に似たモンスターの群れに向かって次々と玉のような物を放って争っているのが見えた。ちなみにこの時に海で大きな水柱が立ち上ったのだが、陸にいる生き物達は水柱に気づくことはなかった。


 陸で小さな生き物達と猪に似たモンスターの群れが争っているのを見た「ソレ」は、信じられない速度で陸に向かって泳ぎ、陸に出てその姿を現す。


 海から陸に出た「ソレ」の姿に一番似ているのは亀だろう。甲羅を含めた全身が鋼のような鈍色で、甲羅の表面には刃のような棘が無数に生えており、脚が六本の亀という姿をしていた。


 そして何より一番の特徴は身体の大きさ。猪に似たモンスターよりもはるかに大きく、ゴーレムトルーパーの下半身の獣と同じくらいの巨体は、一歩歩くごとに大地を震わせる。


 海から現れた巨大な亀の中にあるのは「怒り」だった。


 今陸で小さな生き物達が争っている猪に似たモンスターの群れは、自分が何日も前から目をつけていた獲物だったのだ。狩る機会を慎重に伺いながらその肉を食べるのを楽しみにしていたのに、いきなり後からやって来た小さな生き物達が自分の獲物を、猪に似たモンスターの群れを横取りしようとしている。


 そんなことは絶対に許されるはずがない。


「ーーーーーーーーーー!」


 巨大な亀は怒りのままに咆哮を上げ、雷のような咆哮は周囲の大気を震わせた。

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