昔に見た夢
「準備が整い次第首都を出て、ここまで早馬で四日か」
アックア公国の首都から東にある平原でビアンカを周囲を見回して口を開いた。
「予想以上に早く到着したな」
「全くです。本来であればこれより後二日はかかったかと」
ビアンカの呟きに彼女の隣にいるアックア公国軍の軍人の男が頷く。頷き答えた軍人は今回の合同任務に参加した砲兵隊の隊長で、ビアンカより歳上に見えるがこれでも昔、アックア公国の士官学校で学んだ同期である。
大砲は他の武器や戦闘系の異能と比べて射程距離が長くて一度の攻撃による破壊範囲も広いが、大砲の他に火薬や砲弾等運ぶものが大量にあるので、砲兵科の部隊は他の兵科の部隊よりも移動速度が遅い。しかし今回の合同任務ではいつもの二倍近い、他の兵科と同じくらいの行軍速度で目的地に辿り着けたことに砲兵隊の隊長は驚きを禁じ得なかった。
そして今回急に行軍速度が二倍近くになったのは全てサイの「倉庫」の異能のお陰であった。彼が砲兵隊の大砲や物資を全て異能で作った異空間に収納してくれたので、隊員達は手持ちの荷物だけを運んでここまで移動が速やかに行われたのである。
「正直、ここまでの行軍だけでリューラン少佐の有能さは証明されたと思います」
なにしろ物資の運搬にかかる手間と労力を無くしてくれる異能の使い手は、軍にとってこれ以上なく有能な人物だ。砲兵隊の隊長の言葉にビアンカは笑って答える。
「ははっ。確かにな。それで準備の方はどうなっている?」
「はっ。大砲に各物資、そしてヴァイヴァーンとドランノーガはすでにリューラン少佐の異空間から出されて現在準備を整えております」
「よし。それでいい」
ビアンカは砲兵隊の隊長の言葉に満足そうに頷く。
今回の任務でビアンカは、砲兵隊の砲撃でわざとモンスターの群れを呼び寄せ、集まったところをヴァイヴァーンとドランノーガの二機のゴーレムトルーパーで二方向から挟み撃ちにする作戦を立てていた。モンスターは一匹でも充分に脅威となるため、万が一にも逃さないためである。
「モンスターの群れは予定通りこちらへ向かっているが、それでも作戦開始まで一日以上余裕がある。今のうちに準備を整えると同時に兵達に休息をとらせておけ」
「はっ。了解しました」
ビアンカの指示に砲兵隊の隊長が敬礼をして返事をする。今のところ作戦通りに進んでいるのだが、唯一誤算があるとすれば行軍が行き過ぎて作戦開始までの時間が有り余っている点だろう。
「まさか作戦まで一日以上余裕があるなんてな」
ビアンカから全ての兵士に向けた報せを聞いたサイがドランノーガの足元で呟くと、それを聞いたピオンが呆れた顔で話しかけてきた。
「何を言っているのですか? これは全てマスターの異能のせい……ではなくお陰なんですよ? マスターはいい加減ご自分の異能の凄さを理解した方がいいと思いますよ?」
ピオンの言葉にこの場にいたヴィヴィアンとヒルデにローゼ、クリスナーガとブリジッタ、そしてビークポッドの全員が同時に頷いた。
「そんなものかな……」
ピオン達の反応にサイはそう呟いてから周囲を見回した。周囲ではアックア公国軍の軍人達が大砲の整備をしており更に遠く、あるいは近くを見てみれば、ビアンカのゴーレムトルーパーであるヴァイヴァーンと自らが作り出したゴーレムトルーパーのドランノーガの巨体が目に入った。
「………」
「どうしたのですか、マスター?」
「いや……。いつか見た夢のことを思い出しただけだ」
急に様子が変わった自分の主人にピオンが声をかけると、サイはどこか思い出すような表情で返事をした。
「夢?」
「ああ。まだピオン達に出会う前、自分がゴーレムトルーパーの操縦士になって軍で出世をする夢を見たんだよ」
かなり昔に見た夢なので詳しい内容はほとんど思い出せないが、それでも今の状況とどこか似ているような気がしたサイは口元に笑みを浮かべて小さく呟いた。
「まさか正夢になるとは思わなかったな」
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