もう一つの合同任務

 前文明の遺跡で発見されたホムンクルスの女性カーラは、戦闘技術と一般的な知識しか知らず前文明に関する記憶は持っていなかった。しかし前文明の遺跡から発見されるホムンクルスのほとんどは、自分が作られた目的を達成するための知識しか持っていないのが普通で、ゴーレムトルーパーの操縦者のサポート役として人格を強化された上に前文明に関する知識を与えられたピオン、ヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼの四人が特別なのである。


 そして前文明の遺跡からアックア公国の首都に帰還するとカーラは当初の予定通りブリジッタ専属の護衛となった。ブリジッタは「超人化」の異能を使えるが戦闘訓練は受けておらず、前文明の遺跡から見つけたホムンクルスを自分の護衛や補佐役にする王族や貴族も少数ながらいるので、バルベルトを初めとする多くの人間がカーラをブリジッタの護衛にすることに賛成した。


 ……一部の人間を除いて。


「はぁ……」


 サイはバルベルトが用意してくれたアックア公国での活動の拠点である屋敷の一室で大きなため息を吐いた。彼の目の前には婚約者であるブリジッタが椅子に座っていて、その隣にはカーラがいつ襲撃が起きてもブリジッタを守れるように隙のない、それでいて自然の体勢で立っていた。


 カーラの外見はブリジッタよりも少し歳上の二十代の女性で、戦闘用としてつくられたホムンクルスだからなのか美しいだけでなく戦士としての力強さを感じさせる姿をしていた。現在彼女はアックア公国軍の女性士官用の軍服を着ており、アックア公国軍の軍服はカーラの凛とした雰囲気を際立たせるだけでなく彼女の豊かに整ったプロポーションを強調していて、それを見てサイは再びため息を吐いた。


「はぁ……。やっぱり俺がカーラのマスターになりたかったな……うぐぅ!?」


「マスター? マスターには私達というホムンクルスがいるでしょう? 一体何が不満なんですかぁ?」


 ため息を吐いて心から後悔するように呟いたサイの顔に突然何かが押し付けられた。彼の顔に押し付けられたのはピオンの乳房で、自分の乳房を主人である青年に押し付けるホムンクルスの少女は僅かに怒っているような口調で話しかける。


「そうですね……。私達だけでは満足できませんか、マスター殿」


「愛しのマスター……。もし私達に至らぬ点があったらどうぞ言ってくださいね」


「私達、マスター様を満足させられるように今まで以上に努力しますから」


 ピオンに続いてヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼも自分達の乳房をサイの後頭部と両腕に押し付けて甘い声で囁いてくる。それを聞いて彼は、ピオンに胸を押し付けられたまま一切の抵抗を見せることなく声を出す。


「いや……お前達に不満なんてない。ただ男は何時だって巨乳を求めるものなんだ。女性の胸には男の夢がつまっている。だから女性の胸は大きければ大きいほどイイ!」


 四人の美女の乳房に埋もれるという幸せな体験をしながら最低な発言をするサイ……ではなく巨乳好きな馬鹿。そんなサ……巨乳好きな馬鹿の発言に、クリスナーガが頭痛がするのか額に手を当てながら口をする。


「サイ……貴方ねぇ、私達婚約者二人の前でよくそんなこと言えるわね?」


「あはは……」


 クリスナーガの言葉にブリジッタも苦笑いを浮かべる。クリスナーガもブリジッタも怒ってはいなかったが、流石にいつまでもこの体勢なのは不味いと思ったサイは、渋々とピオン達を引き剥がして二人の婚約者に謝罪をする。


「二人ともすまなかった。……えーと、それで次のアックア公国軍と合同でやる任務って、いつやるんだ?」


 サイがもう一つの合同任務について訪ねるとブリジッタは首を横に振って答える。


「それなのですが、まだ出現情報が届いていないようでいつ行われるかは分からないみたいです」


「出現情報? ……もしかしてもう一つの任務って、モンスターの討伐なのですか?」


 ブリジッタの言葉からピオンが任務の内容を予測して聞くとブリジッタはそれに頷いてみせた。


「そうです。アックア公国では毎年あるモンスターが大量発生して国内を暴走するという現象があるのです。サイさん。ピオンさん。貴方達が以前、ビアンカ伯母様を助けて討伐したあの猪のモンスターの群れ。それの討伐です」

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