遺跡の奥で見つけたもの

 ブリジッタの話が終わった後もサイ達は前文明の遺跡の調査を続けられ、調査が開始されてから二時間が経過した。


 遺跡はブリジッタの予測通り砦の目的を持った建物、前文明の前線基地であった。一通りの部屋を調べて回って見つかったのは、前文明で使われていた銃やら爆薬らしきものが多く、他に見つかったものは現在ピオンを初めとする四人のホムンクルスの女性達が調べていた。


「ふむふむ……。これはどうやら無線機のようですね」


 遺跡の一室でピオンは、前文明の知識を一通り脳に刷り込まれた知識を使い、ここに来るまでに手に入れた前文明の遺産の一つを鑑定していた。


「ムセンキ? それはどういう機能があるんだ?」


「まぁ、簡単に言えば遠くにいる人間と話をするための機械ですね。私達の『通心』の能力と同じようなものです」


「それは、凄いな……!」


 ピオンの説明にサイは目を丸くして驚き、その隣ではブリジッタがこの部屋に最初からあった机のような機械の機能をヴィヴィアンに聞いていた。


「これはレーダーですね。この周囲にゴーレムトルーパーやモンスターが近づいてきたらそれを教えてくれる装置です」


「………!」


「それはまた……。全て壊れて使えないのが惜しいな……」


 ヴィヴィアンの机のような機械、レーダーの説明を聞いてブリジッタが感動と興奮で頬を赤くして声のない歓声を上げ、隣で聞いていたビークポッドが顔をひきつらせて正直な気持ちを口にする。


「しかしピオンさん達がいて正直助かる。ピオンさん達のお陰で前文明の遺産の使い方が分かって、調査がはかどる」


 ビークポッドの言葉に、彼と同じく同行していたアックア公国の軍人達、そしてブリジッタが深く頷いて同意する。そんなビークポッド達にヒルデとローゼが笑顔を浮かべて話しかける。


「フフッ。そう言ってくださると私達も嬉しいです。遺産の鑑定は私達にどうかお任せください」


「この遺跡も後はこの先にある倉庫と思われる部屋だけ。そこを調べればここの調査は一先ず終わりですね」


「そうだな。じゃあこの遺産はここに置いて、その倉庫を調べに行くか」


 ヒルデとローゼの話を聞いていたサイが提案すると、他の皆も異論はないようで遺跡にある倉庫へ向かうことにした。




「こ、これは……!?」


「そんな、まさか……!?」


 遺跡の倉庫の中でサイとビークポッドの二人は、倉庫にあった「あるもの」を見て絶句していた。他の皆もまた驚いた表情となっており、全員がある一点を見つめていた。


 サイ達の視線の先にあったのは、人が入れそうな大きさで淡い光を放つ円柱形の水槽であった。水槽の中には一人の女性の姿があり、それを見たピオンが呟く。


「まさかこんな所で私達と同じホムンクルスを見かけるとは思いませんでしたね。……額にある二本の角。どうやら戦闘型のホムンクルスのようですね」


 ピオンが水槽の中にいるホムンクルスの女性の額を冷静に観察しながら言うが、サイとビークポッドが驚いている点はそこではなかった。


 サイとビークポッドが凝視しているのはホムンクルスの額ではなく胸部。水槽の中のホムンクルスの女性は、ピオン達に負けず劣らず豊かな乳房をしていた。


『『巨乳だ……!』』


 サイとビークポッド……ではなく巨乳好きな馬鹿一号と二号は全く同時に同じ言葉を口にする。そしてそれを聞いたクリスナーガは呆れ果てたという表情で巨乳好きな馬鹿一号と二号に声をかける。


「ああ、そう。それは良かったわね。それで? 彼女を一体どうするの? このままここにって訳にもいかないし。でも水槽から出した場合、ホムンクルスって確か最初に目覚めさせた人を自分の主人にするんでしょ?」


『『……………!?』』


 クリスナーガの言葉にサイとビークポッドの二人は雷に打たれたような表情になり、すぐにお互い向き合うと二人同時になにやら腰だめの体勢となる。


『『最初は……グー!』』


 サイとビークポッドが気合いの声と共に右拳を放ち、それぞれの拳はお互いの相手の顔に深くめり込んだ。


「ビークポッド……! いきなり先制攻撃とはやってくれるじゃねぇか、この外道が……!」


「サイ……! それはこちらの台詞だ、この鬼畜が……!」


 互いに相手の顔に右拳をめり込ませながら親の敵を見るような目を向け合うサイとビークポッド。二人はしばらくの間、その体勢のまま睨み合っていたがすぐに再び拳を、それも今度は右拳だけでなく左拳も振るいだした。


「グー! チョキ! グー! グー! パー! グー! チョキ! チョキ! パー! グー!」


 拳。手刀。拳。拳。掌底。拳。手刀。手刀。掌底。拳。


「チョキ! グー! チョキ! パー! !グー! パー! パー! グー! グー! パー!」


 手刀。拳。手刀。掌底。拳。掌底。掌底。拳。拳。掌底。


 サイとビークポッドの二人は、ジャンケンのかけ声と共に三種類の拳を繰り出し、相手の身体に叩き込む。


 その様子はもはや遊技ではなく格闘技。ジャンケンではなく邪ン拳。


 サイとビークポッド。男と男の巨乳を巡る戦いを止められる者はここにはおらず、巨乳好きな馬鹿一号と二号のかけ声、そして肉で肉を叩く音は今から三時間続くのだった。

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