伯母を避ける理由

 新たに発見された前文明の遺跡の入り口は、山の中にある崖に巧妙に隠されていた。入り口を隠している岩肌の一部は、自然の災害かモンスターの被害によって壊されていて、これによって発見されたようだ。


 遺跡の内部はイーノ村にあった遺跡も同様に床に壁、天井と全てが金属で作られていて、照明の類いは完全に沈黙していた。しかしそんな照明もなく暗闇と化した遺跡の中を、灯りを持ったブリジッタが迷いのない歩みで進み、その後ろをサイ達が続いていく。


「ブリジッタさん。随分と自信を持って進んでいますけど道が分かるのですか?」


「はい。分かりますよ」


 自分の主人の婚約者の護衛ということでブリジッタの横を少し遅れて歩くヴィヴィアンが聞くと、ブリジッタは即答して道が分かる理由を説明する。


「前文明の遺跡はその目的によって構造に共通点があるんです。……多分この遺跡は私達で言うところの砦に近い目的で造られたようですね」


「少し歩いただけでそこまで分かるなんて凄いですね」


「当然ですよ、ヒルデさん」


 足を止めることなく周囲を注意深く観察しながら自分の推測を口にするブリジッタにヒルデが呟くと、ビークポッドが自慢するように頷いた。


「ブリジッタ様は幼少の頃から前文明の研究を行っていて、十一歳になる頃には専門の博士に負けないくらいの知識を持っていたのはアックア公国の貴族の間では有名な話です。ブリジッタ様は前文明の研究において最も優れている学者であると」


「そんなことはないですよ」


 ビークポッドの言葉にブリジッタは僅かに照れた表情で返事をする。


「私はただ前文明のことが好きで、もっと前文明の技術を知りたかっただけですよ。前文明の技術の研究は国の発展にも繋がりやすいから、お父様も他の皆さんも喜んでくれましたしね。ですが……私はそれで調子にのって一度ビアンカ伯母様に大きなご迷惑をかけてしまいました」


「大きなご迷惑ですか?」


 自嘲するように言うブリジッタに、クリスナーガの護衛として彼女の横についていたローゼが聞くと、彼女はかつて自分が行った出来事を話した。


「ええ……。実は私、十二歳の頃にビアンカ伯母様のヴァイヴァーンを動かそうとしたことがあるんです」


『『………!?』』


 ブリジッタの告白にサイを初めとするこの場にいる全員が驚いた顔となる。


 ヴァイヴァーンとはアックア公国が保有している三機のゴーレムトルーパーの一機で、ビアンカが乗る機体である。本来、国の防衛の要であるゴーレムトルーパーに乗れるのは、その操縦者の他に特別な許可を得た者だけで、例え大公の娘とは言え十二歳の子供が勝手にゴーレムトルーパーに乗ろうとしたと聞けば驚かないはずがなかった。


「……ブリジッタがゴーレムトルーパーを好きなのは知っているけど、流石にそれは無茶すぎないか?」


「そうですね。私自身もそう思います。実際あの時、ヴァイヴァーンに乗った私はヴァイヴァーンを暴走させてしまいました。暴走するヴァイヴァーンにビアンカ伯母様が決死の覚悟で乗り込んで暴走を止めてくれなかったらどうなっていたか分かりません」


「なるほど……。それが理由でブリジッタはビアンカ様を避けていたわけね」


 苦笑するサイにブリジッタが頷き当時の事を話すと、黙って話を聞いていたクリスナーガが納得したように呟く。


 フランメ王国の王族で以前からパーティー等でブリジッタと会っていたクリスナーガは、彼女がビアンカをどこか避けているのに気づいていたし、先日イーノ村へ行った時も話しかけようとしなかった事にも気づいていた。今まではその理由が分からなかったクリスナーガだが、今の話を聞いてようやく理解できたのだった。

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