サイの影響
アックア公国を統べる大公であるバルベルトの娘のブリジッタは、普段であれば貴族の娘らしく気品があって物静かな女性である。しかし自らが研究している前文明が関わると、まるで人が変わったかのように活動的となる。
アックア公国での合同任務。その一つが最近発見された前文明の遺跡の調査と知ったブリジッタの行動は、いつもの彼女からはとても予想できないくらい劇的であった。
ブリジッタはまずバルベルトに帰国した挨拶をした後、前文明の遺跡の調査の日程を確認して、出来るだけ早く調査に出たいと交渉した。そしてそんな娘の性格をよく知っているアックア公国の大公は、この無茶な要求を予測しており苦笑を浮かべながら頷き、前文明の遺跡の調査は予定の日程より早く開始されることになる。
こうしてサイ達がアックア公国の首都に到着してから三日後。サイ達にビークポッドを含むアックア公国の軍人数名を加えた調査班は、新たに見つかった前文明の遺跡へと向かい、彼らが遺跡がある場所に着いたのはアックア公国の首都を出発してから四日後のことであった。
X X X
「……皆さん、我が儘を言って申し訳ありませんでした」
前文明のある場所に着き、興奮が冷めたブリジッタは恥ずかしそうな表情となってサイ達とアックア公国の軍人達に頭を下げて謝罪した。
「いや、別に気にしてないから大丈夫だよ」
「そうね。元々この調査もこの婚約パーティーの準備中にしないといけなかったんだし、早く終わらせましょう」
頭を下げるブリジッタにサイとクリスナーガは、ここに来るまでの前文明の遺跡の事を思い興奮していた彼女の事を思い出して、ブリジッタの父親であるバルベルトが浮かべていたのと同じ苦笑を浮かべてそう言った。そしてその後ろでビークポッドを含めたアックア公国の軍人数名も同様の苦笑を浮かべている。
「ごめんなさい。そしてありがとう」
「まあ、私達としてはもう少し余裕があった方が良かったんですけとね?」
サイとクリスナーガ達の言葉にブリジッタが礼を言うと、そこにピオンがからかうような口調で言ってからサイの右腕に抱きついた。
「せっかく久しぶりにアックア公国の首都にやって来たのですからマスターとのデートをしたかったのに。マスターもそう思いません?」
そう言ってピオンはサイの右腕に自分の乳房を押しつけてその形を歪ませる。そして本来なら従者であるピオンを止めて婚約者であるブリジッタを助けるべきサイは、右腕から感じるホムンクルスの乳房の感触に全神経を集中させていた。
流石は巨乳好きな馬鹿。どんな時でも自分の性欲に忠実である。
「そこまでにしておいてくれ、ピオンさん。それとサイ、あまり見せつけるな。嫉妬のあまり殴ってしまいそうだ」
困っているブリジッタに代わりビークポッドがピオンを止める。ただし言葉の最後に隠しようのない強い嫉妬の感情を感じさせる辺り、サイの友人らしいと言える。
「ああ。……すまなかったな。それにしてもよくこんな所を見つけたな?」
ビークポッドの言葉にサイは渋々とピオンを右腕から引き離すと、話題を変えようと周囲を見回した。今彼らがいるのは人の手が入っていない山の中で、前文明の遺跡があるようには見えなかった。
「アックア公国は一年くらい前から前文明の調査に力を入れているからな。そしてそれはサイ、お前の影響らしいぞ?」
「俺の影響?」
ビークポッドはサイの質問に答え、彼が首を傾げるとそれに頷いてみせた。
「そうだ。どの国でも生鉄の樹の状態が年々酷くなり、中々新たなゴーレムオーブが手に入らないという時に、お前は新たなゴーレムオーブを手に入れてドランノーガという強力なゴーレムトルーパーを作り出した。それを聞いたアックア公国の上層部は、自分達の遺跡にも新たなゴーレムオーブが造られているのではと考え、調査を開始したそうだ。話ではフランメ王国でも同じだと聞いたが知らないのか?」
「あー……。そういうのはあまり聞いたことがなかったな」
フランメ王国の軍人でありながら、あまりどころか全く自国の軍の情報を聞いたことがないサイは、ビークポッドにそう答えて誤魔化すのと同時に納得した。
確かにサイ達は故郷のイーノにある生鉄の樹を内緒にしていた頃、ドランノーガのゴーレムオーブはイーノ村近くの遺跡から発見したと、フランメ王国とアックア公国の両方に嘘の報告をしていた。それを信じて「宝探し」を計画する人物が軍にいたとしても不思議ではない。何故ならもし万が一その宝探しでゴーレムオーブが手に入れば、一機あるだけで国同士のパワーバランスに大きな影響を与えるゴーレムトルーパーが国に加わるのだから。
そして今回見つかったこの遺跡も、ゴーレムオーブを求めた「宝探し」で見つかったものらしい。
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