唯一の友人

 サイ達のアックア公国での婚約パーティーとアックア公国軍との共同任務を計画したバルベルトは、イーノ村からアックア公国へ帰るとすぐに準備に取りかかっていた。それによってサイ達がフランベルク三世から任務を聞いた翌日にはアックア公国から彼らを向かえる一団が到着し、その一団の中にビークポッドの姿もあったのである。


「お前、士官学校を卒業した後、予定通りアックア公国軍の砲兵科に入隊したんだろ?」


「その軍の命令でここに来たんだよ」


 サイの疑問にビークポッドは何でもないように答える。


「サイは今やフランメ王国だけでなくアックア公国にとっても重要な人物だからな。失礼がないようにと、士官学校時代に交流があった俺が相手役に選ばれたというわけだ」


「なるほど……」


 ビークポッドの言葉にサイは納得して頷く。


 確かに今のサイ達の立場上、付き人が一人もいないと言うのは外見上あまりいいことではないが、通常の貴族に付くような付き人では他はともかくサイはあまり落ち着かないだろう。それを見越してバルベルトはサイ達の付き人役にビークポッドを選んだのであった。


 サイがバルベルトの心遣いに感謝をしているとビークポッドがいきなりため息を吐いた。


「ふぅ……」


「? どうしたんだ?」


「サイは今ではフランメ王国の英雄で、その上伯爵で少佐なのだろう? ……一気に差をつけられてしまったなと思ってな」


「あー……」


 寂しそうな表情で言うビークポッドにサイは苦笑を浮かべることしかできなかった。


 確かにサイは異常なまでのスピードで出世をしている。だがそれは新たなゴーレムオーブの発見、都市をも滅ぼしうる大型モンスターや黒竜盗賊団の討伐といった、普通ならば考えられない出来事をいくつか体験した結果であり、とても自分達の実力によるものだと言えなかったからだ。


「まあ、気にするなよ。ビークポッドだって砲兵科で期待の新人って呼ばれて注目されているんだろ?」


 サイとビークポッドはアックア公国の士官学校を卒業してからも月に一度か二度の割合で手紙のやり取りをしていた。それによるとビークポッドは、過去に黒竜盗賊団の団員と戦って勝利したことから入隊してすぐ注目を集め、本人の実力もあって今では順調に出世をしているらしい。


「うん……。いや、まあ、それはそうなんだが……」


 しかしビークポッドはサイの言葉に喜ばず寂しそうな表情のまま言葉を濁し、そんな友人の様子にサイは首を傾げる。


「何だ? 嬉しくないのか?」


「いや、回りに注目されるのも出世するのも嬉しいさ……。だが、だが……!」


 そこまで言ったところでビークポッドは苦悶の表情を浮かべ、絞り出すような声を出した。


「だが……! 出世をして注目を浴びても、それで近づいてくるのはほとんどが男で、たまに女性と知り合えても彼女達は巨乳ではなかったのだ……!」


「……!? なるほど、確かにそれは問題だな……!」


 巨乳の女性と知り合う機会がないことを真剣に嘆き悲しむサイとビークポッド……ではなく巨乳好きな馬鹿一号と二号。二人の会話を聞いてピオンを初めとする四人のホムンクルスの女性達が呆れを含んだ笑みを浮かべ、ローゼが一人呟いた。


「フフッ。このやり取りも懐かしいですね。マスター様も楽しそうでよかったです」


 子供の頃は故郷である辺境の村で大人に混じって仕事をして、フランメ王国の士官学校時代ではその生まれと異能に対する偏見のせいで見下されていたサイは、アックア公国に留学するまでは友人という者いなかった。だから歳が近くてくだらない話を言い合えるビークポッドと話しているサイの表情は楽しそうであり、ローゼは自分達の主人である青年の唯一の友人がここに来てくれたことを心の中で感謝するのであった。

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