バルベルトの思いつき

「まったく……! サイ達もサイ達ですが陛下も陛下ですぞ。模擬戦であそこまで本気を出してどうするのですか?」


 ドランノーガとリードブルムの模擬戦が終わったその日の夜。フランベルク三世とクリストファー、バルベルトとビアンカ、そしてブリジッタとクリスナーガはフランベルク三世専用のテントに集まっていて、そこではクリストファーがフランベルク三世に向けて苦言を言っていた。


 クリストファーが言っているのはドランノーガとリードブルムの模擬戦のことで、あれはクリストファーが止めていなかったらどちらかが、あるいは両方が大破しそうな勢いであった。そしてもしそうなれば当然乗っている操縦士も無事ではなかっただろう。


「ははっ……。すまないな。サイ君だけでなく、ピオン達まで素晴らしい戦いを見せてくれたからつい熱くなってしまってね」


「つい、ではありませんぞ」


 流石にやりすぎだった自覚があるのかフランベルク三世が苦笑をしながら答えると、クリストファーは疲れたような表情となって言葉を漏らした。そんな二人にバルベルトが声をかける。


「まあ、別にいいじゃねぇか。俺もかなり見ごたえのある模擬戦だったと思うぜ? それで聞くが、あの二機をどう思う?」


 バルベルトが聞くのは、今日と昨日の模擬戦でその力を見せたドランノーガとドラトーラの事だ。


「そうじゃな……。ドラトーラはワシとジェノバイクを弾き飛ばしたあの光の球のようなものが凄かったの。攻撃が当たったかと思ったら機体ごと弾き飛ばされて、機体の機能が停止したのには肝が冷えたわい。あれは恐ろしい機能じゃな。ゴーレムトルーパーは近接戦をするものじゃから向こうから光の球の効果範囲にやってくるし、機能を停止させる効果は実戦で決まれば勝ちが決まったようなものじゃ」


 最初に答えたのはクリストファーで、自分が模擬戦の相手をしたドラトーラの感想を口にすると、次にドランノーガの感想を口にする。


「それでドランノーガはあの飛行能力と遠距離攻撃が脅威の一言だったの。報告では知ってはいたが、実際に空を飛んで火の玉を放つ姿を見た時は正直驚いたものじゃ。あれは使い方次第では複数のゴーレムトルーパーを相手取る事ができるじゃろうな」


「ドランノーガの力はあんなものではないぞ」


 クリストファーの言葉に割り込んんできたのはビアンカだった。今から一年以上前にモンスターの大群を吹き飛ばしたドランノーガの姿を思い出しながら言う。


「今日の模擬戦では火の玉を放つ武装しか使っていなかったが、ドランノーガの下半身の竜に頭部にある主砲、あれは何百何千のモンスターの大群を焼滅させるだけの威力がある。飛行能力を使って強襲し、あの主砲を使用すれば国すらも滅ぼせるだろうな」


「そこまで物騒なのかよ……。それでフランメの、実際に戦ってみてどうだった?」


 自分の妹が相手を過大評価もしなけば過小評価もしない性格だと理解しているバルベルトは、ビアンカの言葉に思わず一筋の冷や汗を流すと、模擬戦でドランノーガと戦ったフランベルク三世に意見を求める。


「そうだな……。やはり砲撃戦特化の機体であるため近接戦は苦手なようだが、あれだけ動けるのなら問題はないだろうな。それとドラトーラはリードブルムに遠距離から攻撃する手段がない以上戦いたくはないな」


「そうか……」


 フランベルク三世の意見にバルベルトは少し考えてから口を開く。


「ドランノーガに続いてドラトーラまで加わって、フランメ王国の軍事力は大きく上がったという訳か……」


「バルベルト陛下。サーシャの嬢ちゃんはまだ軍人ではないぞ」


 バルベルトの言葉にクリストファーが横から口をはさむ。最終的には軍人になると公言しているサーシャだったが、今の彼女はただの一般人であり、一般人の少女が戦場に立つことなどクリストファーには認められなかった。


「いや、そんなのはどうとでもなるだろう? ……しかしまあ、フランメ王国がここまで力をつけたのを見るとサイとブリジッタをくっつけて同盟を強化したのは正解だったが、いっそのこと婚約じゃなくて婚姻を結ばせた方が良かったな。ブリジッタもクリスナーガの嬢ちゃんもサイの事は嫌いじゃないんだろう?」


 バルベルトの言葉にクリスナーガとブリジッタも頷く。


「そうですね。サイとだったら一緒に楽しい日々を送れると思いますから不満はありません」


「私もです、お父様。ドランノーガ様と正式に妻になれて、ドラトーラ様とも家族になれるのですからこれ以上の喜びはありません」


「お、おう、そうか……」


 クリスナーガの返事はともかく実の娘であるブリジッタの返事にバルベルトは表情をひきつらせる。前文明に興味があるあまり、その技術の結晶であるゴーレムトルーパーに愛情を抱く様子は相変わらずのようだった。


「バルベルト。サイ君を『成り上がり者』と軽視する貴族がフランメ王国とアックア公国の両国に多くいる。だから彼に実績を積ませてその貴族達を納得させるまで婚約で済ませようと私と君で決めたのではないか?」


「そうなんだがな……。全く、何か近くで大きな戦いでも起きねえかな。そしたらそこにサイを放り込んで奴に手柄を挙げさせられるのによ……いや、待てよ」


 フランベルク三世の言葉に物騒なことを口にしたバルベルトは、急に何かを思い付いた表情なるとフランベルク三世に話しかける。


「なあ、フランメの。急な用事がなかったら、サイ達をアックア公国に貸してくれないか?」

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