紺と真紅の模擬戦(4)

『サイ君ではなくてピオン君達が相手か……。面白い!』


『『行きます!』』


 急に動きが変わったドランノーガを操縦しているのがピオン達だという事実に、通信から聞こえてくるフランベルク三世の声は最初こそ驚いていたが、すぐに興味深そうな声音にと変わった。そして四人のホムンクルスの女性達も好戦的な笑みを浮かべて同時に声を上げた。


(……なんか、ピオン達だけでなく陛下も楽しそうだな? 俺にも何か出来ること……はっ!?)


 ドランノーガの操縦権をピオン達に渡したことにより一人蚊帳の外となったサイは、何か出来ることはないかとピオンの方を見た時、ドランノーガを高速で動かすことで生じた振動によって彼女の乳房が小刻みに揺れているのに気づいた。それからしばらく彼は視線だけで彼女の柔らかく、それでいて忙しく揺れる胸を見た後……。


(うん。本人達も任せろって言っていたんだし、ここは見守ることにするか)


 と、無言でピオンの胸……ではなく戦いを見守る結論を出した。やはりサイ、ではなく巨乳好きな馬鹿はどこまでいっても巨乳好きな馬鹿であった。


 そして隣で自分の主人が下心丸だしな思考をしているとも知らないピオンは、リードブルムへ攻撃を仕掛けるべく自分と同じ青年に従う三人のホムンクルスの女性達に指示を出した。


「ヴィヴィアン!」


『了解! カロル・ディギトゥス発射!』


『………!』


 ヴィヴィアンがピオンの言葉に返事をしてドランノーガに命令を出すと、ドランノーガの騎士の上半身が両腕から無数の火の玉をリードブルムに向けて放った。


『そう来たか! だが甘い!』


 無数の火の玉を放ちながらリードブルムの元へ向かってくるドランノーガ。それを見てフランベルク三世は不敵な笑みを浮かべると、真紅の竜騎士を左から右、右から左と速度を落とすことなくジグザグに走らせることでドランノーガのカロル・ディギトゥスを全て回避させて、冷静に攻撃するタイミングを計る。


 現代のゴーレムトルーパーであるリードブルムはドランノーガのように空を「飛ぶ」ことは出来ない。しかし下半身の竜の翼から噴出される炎の勢いを利用すれば、短時間だけかなりの高度を「跳ぶ」ことは出来る。


 ドランノーガの高度がリードブルムの跳躍で届くところまできたら、その瞬間にリードブルムの灼熱の牙で反撃しようと考えたフランベルク三世は、その時ある「違和感」を感じた。


(……? 何だ、これは?)


 ほんの数秒前。ピオン達が攻撃を仕掛けてきた時は、どこに移動すればドランノーガの火の玉を避けられる「逃げ道」が無数にあったのだが、火の玉を避ける度にその「逃げ道」が確実に減っていくような気がしたのだ。


(これは……まさか誘い込まれているのか!?)


 フランベルク三世の脳裏に一つの予想が浮かび上がり、そしてその予想は当たっていた。


 現在ドランノーガの内部では、ヒルデとローゼがリードブルムの動きや周囲の地域の情報を観測しており、その情報を「通心」の力でヴィヴィアンに送っていた。そして情報を受け取ったヴィヴィアンは、その情報を元にリードブルムの行動を予測してカロル・ディギトゥスを放ち、リードブルムの動きに制限を与えていたのだ。


 全てはリードブルムを攻撃が来ると分かっていても避ける事が出来ない状況に追い込み「本命の一撃」を与える為に。


(っ!? あれは……!)


 自分が誘い込まれている事を悟り、歯噛みをしていたフランベルク三世は、ドランノーガの下半身の竜の前腕部に装備されている武装、カロル・ブラキウムの砲口に光が集まっているのに気づく。


『なるほど……! 火の玉の連射で私の動きを制限して、本命の大砲を確実に当てるのが狙いか!』


「はい♪ ご明察の通りです、陛下」


 通信から聞こえてくるフランベルク三世の声にピオンは笑みを浮かべて頷く。


『ははっ! 面白い! それなら君達の大砲と私の牙と翼! どちらが先に相手を討つか勝……!』


『そこまでぇ!』


 ドランノーガとリードブルム。二機のゴーレムトルーパーが先に相手に必殺の攻撃を当てる為、更に加速しようとしたその時、二機のゴーレムトルーパーの操縦室に突然、クリストファーの声が響き渡った。

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