紺と真紅の模擬戦(3)

「まさかリードブルムがあれほどの強さだとは思いませんでした。これは現代のゴーレムトルーパーを甘く見ていた私のミスです。申し訳ありません、マスター」


「気にするな、ピオン。今はリードブルムは倒すことだけを考えろ」


 下にいるリードブルムを見ながら悔しそうな顔で謝罪をするピオンに、サイもまた真紅のゴーレムトルーパーから目を離すことなくそう答える。


「……しかし、どうしたものかな? あの動き、何も考えずに撃っても絶対に当たらないぞ」


 上空へ飛ぶことでリードブルムの突撃から逃れてそのまま高度を上げていくドランノーガの下では、真紅のゴーレムトルーパーが翼から噴出する炎で加速して、こちらの狙いを定まらせないように不規則な軌道で走り回っていた。これではサイの言うようにただカロル・ディギトゥスを撃っても全て回避されることだろう。


 加えて言えばドランノーガはいつまでも空を飛べるわけではない。脚部の噴出口から出る炎の勢いを利用して長時間滑空が出来るだけでいつかは高度を落として地面に着地せねばならず、そうなれば今度はリードブルムの突撃を避けられない。


 ドランノーガを飛ばしながらリードブルムに攻撃を当てる方法をサイが考えていると、そこでピオンが口を開いた。


「……マスター。ここは私に、いいえ私達に任せてもらえませんか?」


「ピオン? 何かいい方法でもあるのか?」


「はい。出鱈目に撃っても当たらないのだったら、『当たる状況』を整えればいいだけです。マスター、ここは私達に任せてもらっていいですか?」


「……ああ、分かった」


 サイから許可をもらったピオンは「通心」の力を使って、ドランノーガの下半身の竜の後部にあるホムンクルス製造ユニットに乗っているヴィヴィアン達に指示を送る。


(三人とも。今から私達四人だけでリードブルムに攻撃を仕掛けます。サポートを)


 現在のピオン達四人は「通心」の力で心と頭脳が繋がっている状態であり、四人のホムンクルスの女性達は自分達がそれぞれ何をすればいいのかを理解した。


(ええ、分かりました)


(承知しました)


(お任せを)


 ヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼの三人から「通心」の力を使った返事を受け取って、ピオンは行動を開始した。


「それでは……行きます!」


「っ! ピオン!?」


『何だと!?』


 サイに代わりドランノーガを操縦したのはピオンで、彼女の隣に座るサイとリードブルムに乗るフランベルク三世は、ピオンのとった行動に目を見開き驚きの声を上げた。


 ピオンがとった行動。それはドランノーガを加速させてリードブルムに向けて急降下させるというものであった。


 わざわざ高度という利点を捨てて、自分からリードブルムの射程圏に近づいてくるドランノーガの姿はやはり不可解なのだろう。通信から聞こえてくるフランベルク三世の声は明らかに戸惑っていた。


『一体どういうつもりだ? まさかもう勝負を捨てるのか?』


「まさか。そんなわけないでしょう?」


 フランベルク三世の声にピオンがドランノーガを操縦しながら返事をする。その言葉からは諦めの色はなく、むしろ彼女の表情からは勝算があるように見えた。


『その声……ピオン君か?』


「はい。ここからはマスターに代わり、私達ホムンクルス四人がお相手させてもらいます。さあ、行きますよ三人とも!」


『『はい!』』


 ピオンはフランベルク三世の言葉に答えると、自分と同じサイに従う三人のホムンクルスの女性達に声をかけ、ヴィヴィアンとヒルデとローゼの三人はそれに返事をするのだった。

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