ヴィヴィアンの働き

「ふう……。やれやれ、ひどい目に遭ったわい」


 ドラトーラとジェノバイクとの模擬戦が終ってしばらくした後。ドラトーラの電磁波によって停止していたジェノバイクの機能が一分回復すると、ジェノバイクの上半身の騎士の背中にある操縦席から這い出てきたクリストファーが疲れた顔で呟いた。


「お疲れ様でした、クリストファー殿。模擬戦はどうでしたか?」


 ジェノバイクの上から地面に降り立ったクリストファーにフランベルク三世が話しかけると、外見は少年の歴戦の将官は憮然とした顔で答えた。


「どうもこうもあるかい。サーシャの嬢ちゃんに戦いの怖さを教えようと思ったら、見ての通りワシの方が力の差……ゴーレムトルーパーの真の力を教えられたわい。全くドランノーガといいドラトーラといい、いきなり新しいゴーレムトルーパーが二機も現れては爺の頭ではついていけんわ。……ワシもそろそろ引退した方がいいかもしれんのう?」


「それは困りますね。クリストファー殿とジェノバイクにはまだまだフランメ王国を支えてもらわないと」


 フランベルク三世が苦笑しながら言うと、それにクリストファーが肩をすくめてみせる。


「分かっとる。言ってみただけじゃ。アースレイのいたずら小僧はまだ頼りないし、サイの坊主とサーシャの嬢ちゃんは見込みはありそうじゃがいくつか『足りない』があると見える。陛下は国の中心であるから当然無茶はさせられんし、もう少しこの老骨に鞭を入れてみるわい。……それにしても」


 そこまで言ってクリストファーは、自分の愛機をあっさりと倒してみせたドラトーラと、その兄妹機であるドランノーガを見つめる。


「こうして祖国を護ろうとする若くて強い力が現れるのを目にすることができるとは……長生きはしてみるものじゃのう」


「ええ、そうですね」


「確かにな。ドランノーガに続いてドラトーラみたいな反則級のゴーレムトルーパーを手に入れるなんて羨ましいかぎりだぜ」


 クリストファーの言葉にフランベルク三世が頷くと、そこにバルベルトとビアンカとヴィヴィアンの三人がやって来た。他のサイを含めた全員はドラトーラから降りてきたサーシャに、体に異常などがないか確認を取っている最中であった。


「バルベルト」


「よぉ、いきなりで悪いけど、サイかサーシャちゃんのどっちかアックア公国にくれない? もちろん両国共通の貴族兼軍人でいいからさ」


「本当にいきなりだな。答えはもちろん却下だ」


 フランベルク三世に即答されてバルベルトは、分かってはいたのだがそれでも心から残念そうな表情を見せる。


「それは残念だな。まぁ、サーシャちゃんはいずれ義理の息子になりサイの妹なんだし、いざって時は援軍を頼めるだろ?」


「それにあのドラトーラの情報を持ち帰ればアックア公国にいる『フランメ王国にばかり肩入れしすぎでは?』という貴族達も黙ることでしょう」


 バルベルトの言葉にビアンカが続く。バルベルトはサイとブリジッタとの婚約をきっかけにフランメ王国とアックア公国との同盟の強化を実行したのだが、これに対してアックア公国の一部の貴族は「一国にだけあからさまに同盟関係を強めては他国を刺激する恐れがある」と難色をしめしていたのだ。しかしドランノーガに続いて現存するゴーレムトルーパーを軽く凌駕する機体が更に一機フランメ王国に加わったと聞けば、その貴族達も文句を口にしないだろう。


 そういう意味ではドラトーラの戦いぶりを見れただけでも、ここに来た価値があると思うフランベルク三世とバルベルトにヴィヴィアンが話しかける。


「それで両陛下? この土地の共同管理の件ですが……」


「ああ、そうだったな。あれほど状態のよい生鉄の樹がある土地だ。もちろん管理させてもらうよ」


「ウチも管理するぜ。何だったらアックア公国だけで管理してもいいんだぜ」


「ありがとうございます」


 ヴィヴィアンの言葉にフランベルク三世とバルベルトが頷き、それにヴィヴィアンが頭を下げて礼を言う。こうしてこのイーノ村周辺の土地は、表向きはフランメ王国の王族とアックア公国の公族共有の別荘地という名目で両国の共有管理地となり、その管理者となったリューラン家は二国からの支援を受けるようになった。


 そして事がこうなるように動いたのは全て、己の主人が喜んでくれることに全身全霊をかける一人のホムンクルスの手腕によるものであった。

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