フランベルク三世の提案
その日の夜。サイ達はイーノ村の外で建てられたフランベルク三世とバルベルト達が泊まるテントにて夕食に呼ばれていた。
本来であればイーノ村総出でフランベルク三世とバルベルトをもてなさないといけないのだが、辺境の田舎村で二国の王の前に出して恥ずかしくないものがあるのかと聞かれれば答えは否である。実際二国の王の為に建てられたテントはイーノ村にあるどの家屋よりも過ごし易そうであり、専属の従者達が用意してくれた野外食もイーノ村で出る料理に比べて格段に上であった。
それに何より、王族ではあるが戦場に出向く際に野宿を何度も経験している二人は今の状態も苦にならないらしく、むしろ堅苦しい王宮での生活よりも生き生きしているように見えた。
「あの……俺達も呼ばれてよかったのですか?」
夕食に呼ばれたサイがフランベルク三世とバルベルトに聞く。今この夕食の席にいるのはあの模擬戦の時にいたメンバーで全員同じテーブルの席についていて、その周りをフランベルク三世とバルベルトの専属の従者達が立っていた。
「何、別に構わないさ。野営をする時はクリストファー殿やアースレイと食事をとることもあったからね。それと同じことさ」
「それにここにいるのは全員、下手な軍人より強いからな。いざという時は護衛として頼りにしてるぜ」
サイの質問にフランベルク三世とバルベルトが答える。二人の王は言葉通りにサイ達が自分達と同じテーブルの席についている事を気にしていないようで、サイ達も……というか実際はサイ一人だけが僅かに戸惑ってから食事をとる事にした。
干し肉などの日持ちする食材を長い時間をかけて調理して、イーノ村から仕入れた野菜を付け足した料理は非常に美味であった。食事が終わったところでフランベルク三世がサーシャに話しかける。
「そういえばサーシャ君。昼間の君とドラトーラの戦いぶりは凄かった。あのドラトーラの光の球のようなもの……あの力があればすぐに戦場に出ても通用するだろう」
「ありがとうございますー」
自分の半身とも言えるドラトーラを褒められて嬉しかったのか、サーシャが頭を下げてフランベルク三世に礼を言う。
「……しかし、歴戦のゴーレムトルーパーの操縦士であるクリストファー殿をゴーレムトルーパーの初心者であるサーシャ君があっさり倒すとは、本来のゴーレムトルーパーの力とは凄いものだな……」
「事実とは言え、あまりあっさり倒されたとは言わないで欲しいのじゃが……」
長年ゴーレムトルーパーに乗って数多の戦場を戦い抜いてきた誇りがあるクリストファーが、フランベルク三世の言葉に渋面を作る。しかしフランベルク三世はその言葉を聞いておらず、しばらく何かを考えた後顔を上げてサイを見た。
「サイ君。『リードブルム』は持ってきているかね?」
リードブルム。
それはフランメ王国の首都の名前であったが、この場合は別のモノを指していた。
「リードブルムですか? 陛下のご命令通り『倉庫』の異能で収納していますがそれが何か?」
「うむ。良い機会だから明日にでもドランノーガと我がリードブルムの模擬戦をやろうと思ってね」
『『………………………!?』』
フランベルク三世の言葉にこの場にいる全員が驚きで目を見開く。リードブルムとはフランメ王国の国祖がゴーレムオーブから作り出した、代々フランメ王国国王が受け継いできたフランメ王国の象徴とも言えるゴーレムトルーパーであった。
「な、何故俺達と陛下が模擬戦を……?」
「何、ゴーレムトルーパーの真の力というのを自分も体験してみたいと思ってね。それに国王として我がフランメ王国の実力を確かめてみたいと思うのは当然の事だろう?」
そう言うフランベルク三世は肉食獣が笑ったような獰猛な笑みを浮かべていた。普段は冷静沈着だがいざ戦闘になると、ゴーレムトルーパーを受け継ぐ前からも先陣を切っていた血気盛んな性格は今も健在のようだった。
助けを求めてサイが周囲を見てみるが、サーシャやピオン達四人は戦いに反対していないようだし、ブリジッタにクリスナーガはフランベルク三世に逆らえそうな様子ではない。そしてクリストファーとバルベルトにビアンカといったフランベルク三世を止められそうな三人は「またか」と言いたげな表情でため息を吐いており、止めようとする様子はなかった。
どうやらサイ達が乗るドランノーガとフランベルク三世が乗るリードブルムとの模擬戦は避けることができないみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます