ドラトーラの防御機能
時は少し遡り、ディノバイクの操縦席の中でクリストファーは前方にいるゴーレムトルーパー、ドラトーラの姿を油断なく観察していた。
「ふむ……。ドランノーガと同様、見れば見るほどゴーレムトルーパーの常識では考えられんくらいの重装甲じゃな。それでいて機体性能や格闘能力は全て向こうが上。……あれがゴーレムトルーパーの本来の姿か」
そこまで言うとクリストファーは、以前ピオン達から聞いた「現存するゴーレムトルーパーは現代の戦いに適応するあまり、作られたばかりのゴーレムトルーパーに比べてあらゆる面で劣っている」という話を思い出して苦笑する。
「ワシらは長い間ゴーレムトルーパーに乗って戦い続け、自らの機体をより戦いに向いた姿にしてきたつもりじゃった。しかしその結果がゴーレムトルーパー本来の姿から遠ざけ、弱くしていたとは……爺には正直キツい話じゃわい。……じゃが!」
苦笑していた顔から一転、戦士の顔となったクリストファーは乗機を操作して、操縦士の命令を受けたジェノバイクがドラトーラに向かって駆け出した。
「それでもワシには多くの戦場を駆け抜けた経験がある! サーシャの嬢ちゃん、お主の決意を試させてもらうぞ!」
サーシャは自分が手に入れた力、ドラトーラを使って家族やこのフランメ王国を守りたいと言っていた。その言葉を聞いてクリストファーはいたく感心すると同時にひどく心配した。
確かにドラトーラのような強力なゴーレムトルーパーの力があれば、家族を初めとする多くのフランメ王国の国民を守る事が出来るだろう。しかし戦場とは本来危険で恐ろしい場所なのだ。もしドラトーラに対抗できる敵が現れた場合、サーシャがどんな対応をするのか見定め、その後も彼女が家族国を守る意思を持ち続けた場合、クリストファーは自分が直々にサーシャを鍛えるつもりであった。
クリストファーの狙いはドラトーラの下半身の竜の左前脚。ドラトーラの操縦席はドランノーガと同じく下半身の竜の胸部で、そこを突けばサーシャを傷つける事なくドラトーラにダメージを与えられるとクリストファーは睨んだ。
攻撃の狙いを定めたジェノバイクは更に加速すると下半身の竜の頭部にある角を高速で回転させる。
(ジェノバイクの全力の突撃。いくら装甲が厚くてもこれをマトモに食らえばただではすむまい。……む?)
ジェノバイクを加速させて本気の突撃を行わせたクリストファーは、そこでサーシャの乗るドラトーラが回避するどころか防御をするそぶりすら見せていない事に気づいた。
(な、何故何も動きを見せん!? ……ええい! 恨むでないぞ!?)
最早ジェノバイクは突撃を止める事が出来ない距離までドラトーラに接近しており、まさかドラトーラが回避も防御もしないとは思ってもいなかったクリストファーは、せめて操縦席の中にいるサーシャに大きな怪我が出ないようにと祈った。しかし……。
「バリアー」
と、ドラトーラからサーシャの間の伸びた声が聞こえてきたと思ったら、ドラトーラの巨体が光の球のようなものに包まれて、ジェノバイクの角と槍が光の球のようなものに接触した瞬間、ジェノバイクの操縦席の中に凄まじい衝撃が走った。
「な、なんじゃあーーー!?」
突然の衝撃にクリストファーは叫ぶと次の瞬間意識を失った。
『『……………』』
模擬戦が終わった後、サイ達は無言だった。ジェノバイクが全力で突撃したかと思ったらドラトーラが発生した光の球のようなものに弾き飛ばされて終わりという、あまりにもあっさりとした結末に全員が言葉を失っていた。
「えーと……。誰か説明してくれないか?」
「マスター殿。あれは恐らくドラトーラの防御機能です」
サイが一体何が起こったのか説明を求めると、ヴィヴィアンが答える。
「ドラトーラの防御機能?」
「はい」
ヴィヴィアンはドラトーラから目を逸らす事なくサイの言葉に頷く。
「どうやらドラトーラは強力な電磁波を発生させて周囲に放出する機能があるようです。それでジェノバイクの機体を弾き飛ばしたと同時にジェノバイクを機能停止にしたようです」
「ジェノバイクを機能停止?」
ヴィヴィアンの言葉にサイが驚きで目を見開く。そして驚いたのはサイだけでなく、ピオンとヴィヴィアンホムンクルス二人を除く全員も驚いた顔となってヴィヴィアンを見る。
「そうです。ジェノバイクを始め、ゴーレムトルーパーは全てナノマシンの集合体ですから、急に強力な電磁波を受けてしまうと一時的にナノマシンが停止してしまいます。どうやらドラトーラは敵からの攻撃を防ぎ、敵を無力化する事に特化した機体のようですね」
「それはまた何と反則的な機体だな、オイ」
バルベルトがヴィヴィアンの説明を聞いて引きつった顔で呟く。その言葉はこの場にいる全員が共通した感想だった。
どうやらドラトーラも兄にあたるドランノーガに負けないくらいに規格外な機体のようであった。
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