ドラトーラの光

「しかし……何故ゲーボルク大将閣下は模擬戦など言い出したのでしょうか?」


 サーシャとクリストファーが乗り込んで、それぞれ向かい合う位置に移動していくドラトーラとジェノバイクを見ながらサイはフランベルク三世に質問した。今回の模擬戦を言い出したのはクリストファーであり、それもいきなりの提案であったのでサイ以外の全員も、この模擬戦に疑問を感じていた。


「恐らくだが……クリストファー殿はサーシャ君の力量……いや、それ以前に彼女の決意を確かめたいのだろう」


「サーシャの決意、ですか?」


「ああ。前文明の遺跡でサーシャ君が言った言葉は君も聞いていただろう?」


 フランベルク三世に言われてサイは前文明の遺跡で自分の妹が言っていた言葉を思い出す。


 ドラトーラの存在を確認したフランベルク三世とバルベルトは、その操縦士であるサーシャを是非自国の軍にスカウトしようとするのだが、彼女はすでにフランメ王国の軍学校に入学する予定だと言った。そしてその時サーシャは「私はまだ軍のこととかー何も知らないからー、しっかり勉強してーお兄ちゃん達やこの国を守りたいんですー」と言い、それを聞いてクリストファーは何かを考え始めて今回の模擬戦を提案したのだった。


「サーシャ君はいい娘だな。普通、あの年頃の女性が迷いなく『国を守りたい』と言えるものではない」


「? サーシャが言ったのってそんなに変でしたか?」


 フランベルク三世の言葉にサイは首を傾げる。


 辺境の寒村であるイーノ村では、何かしらの危険が発生すると村人全員(アイリーンとその祖父は除く)が協力しあって、村長がまず先頭に立って問題の解決に向かっていた。そんな村長の父親を子供の頃から見ていたサイとサーシャにとって、自らが得た強大な力を国を守るために使うと考えるのは、ごく自然なことであった。


 首を傾げるサイを見てフランベルク三世は一度目をわずかに見開いた後、口元に嬉しそうな笑みを浮かべて頷いた。


「いや、サーシャ君の言ったことは素晴らしいことさ。だからクリストファー殿はサーシャ君を試して、早いうちから鍛えようと思ったのだろうさ。クリストファー殿は以前、軍学校の校長も勤めていたことがあったからな」


「えっ!? そうなんですか?」


 驚くサイにフランベルク三世は頷いて見せる。


「そうだ。……今もクリストファー殿が軍学校の校長であったらサイ君、君は大変だったろうな? クリストファー殿は見込みがありそうな生徒を見つけるとそれこそ鬼のように厳しいシゴキを与えるからな。君はさぞ見込みのある生徒だっただろう」


 そう言って凄みのある笑みをサイに見せるフランベルク三世。フランベルク三世は過去、クリストファーから今自分が言った鬼のように厳しいシゴキを受けた経験があり、それ故に説得力は段違いであった。


「は、はは……。そうですか……」


 凄みのある笑みをフランベルク三世に対してサイは苦笑いを浮かべる。どうやら軍学校の校長が違っても、彼が軍学校時代に厳しい思いをするのは変わらなかったようた。


「おい! 始まるぞ!」


 バルベルトがサイとフランベルク三世に向かって呼びかける。見ればバルベルトの言うとおり、準備を終えたドラトーラとジェノバイクが今にも模擬戦を始めようとしていた。


『『…………………………』』


 草原にいるサイ達全員が無言となってドラトーラとジェノバイクを見る。二機のゴーレムトルーパーはしばらくの間、全く動くことなく相手の様子を見ていたが、やがて二機の片方がゴーレムトルーパーが動き模擬戦が開始された。


 最初に動いたのはクリストファーが乗るジェノバイクだった。


 ジェノバイクは動き出してすぐにトップスピードに入ると両腕に持つ二本の騎乗槍を前方に構え、更に下半身の竜の頭部にある一本の角が高速で回転する。


「っ!? クリストファー殿! いきなり本気で行く気か!」


 ドラトーラに向かって全力の突撃を仕掛けようとするジェノバイクを見てフランベルク三世が血相を変える。


 ジェノバイクはフランメ王国で最も貫通力がある機体であり、その全力の突撃は命中すればゴーレムトルーパーの巨体を貫通するどころか一撃で粉砕することも可能である。見たところドラトーラはドランノーガと同じくらい重装甲であるが、ジェノバイクの全力の突撃を受ければただではすまないと、この場にいる全員が思った。


 高速で突撃をするジェノバイクに対して、ドラトーラは全く動きを見せず防御をする素振りすら見せない。


「サーシャ!」


 ジェノバイクの槍と角がドラトーラに届こうとし、サイがドラトーラに乗る妹の名前を呼んだその時……。


『バリアー』


 ドラトーラからサーシャの間の延びた声が聞こえてきたと思ったら、ドラトーラの巨体が光の球のようなものに包まれ、光の球のようなものにぶつかったジェノバイクは勢いよく吹き飛ばされた。

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