草原での模擬戦
前文明の遺跡の奥で生鉄の樹とドラトーラを確認してから一時間後。サイ達は遺跡から出てイーノ村から離れた草原に来ていた。
「あの……。本当にやるんですか?」
「うむ……。どうやらそのようだ……」
サイが戸惑った表情で聞くとフランベルク三世もまた戸惑った表情で答える。二人の視線の先には何やら屈伸運動などをして体をほぐしているサーシャとクリストファーの姿があった。
「あの、ゲーボルク大将閣下? 本当にやるんですか? サーシャもそれでいいのか?」
「うむ。当然じゃろう」
「私もそれでいいよー」
サイが聞くとクリストファーとサーシャが体をほぐす運動をしながら答える。
「いや、でもだからってこんな所で……」
それでもなおも言おうとするサイ。何やらここでしようとしている事を暗に反対している態度であったが、サーシャとクリストファー以外の全員は彼の態度を咎めようとはしなかった。
「安心せい。軽くワシのゴーレムトルーパーとお主の妹のゴーレムトルーパーを戦わせてみるだけじゃ。お主の故郷に被害など出さんよ」
サーシャのゴーレムトルーパー、ドラトーラとクリストファーのゴーレムトルーパーとの模擬戦闘。それがこのイーノ村から離れた草原で行われようとしていた。
クリストファーは軽く戦ってイーノ村に被害を出さないと言っているが、それでも故郷に近い草原でのゴーレムトルーパー二機の戦闘は避けたいサイであった。
「ほれ、いいからワシらのゴーレムトルーパーを出さんか」
「……分かりました」
それでも上官の命令に逆らえないサイは、クリストファーに言われるまま「倉庫」の異能で収納していたゴーレムトルーパーを現実世界に出現させる。草原に出現したのはサイのドランノーガにサーシャのドラトーラ、ビアンカのヴァイヴァーン、そしてクリストファーのゴーレムトルーパーの計四機であった。
何もなかった草原に一瞬で四機のゴーレムトルーパーを出現させた光景はあまりにも衝撃的であり、クリストファーは四機のゴーレムトルーパーを見上げながら感心したように呟いた。
「これは中々見事なものじゃな。……しかしこれだけの事ができるサイを落ちこぼれ扱いとは、最近の軍学校の者達は何を考えておる?」
サイが軍学校時代落ちこぼれ扱いを受けていた話はクリストファーの耳にも届いており、彼は軍学校の態度に疑問を懐くと「近いうちに顔を見せるか」と呟く。
「ねー? あの白いゴーレムトルーパーがクリストファーさんのゴーレムトルーパー?」
「ん? ああ、そうじゃよ」
ドランノーガ、ドラトーラ、ヴァイヴァーンに並ぶ四機目のゴーレムトルーパーをサーシャが指差して訊ねるとクリストファーが答える。
サーシャが指差したのは、全身が白の竜に乗った騎士の巨像であった。下半身の竜は四本の脚で大地を踏みしめ、頭部の前方に向かって生えている一本の長大な角が特徴で、上半身の騎士は両腕にそれぞれ穂先が地面に届きそうなくらい長い馬上槍を一本ずつ持っていた。
「これがワシのゴーレムトルーパー『ジェノバイク』じゃ。我がゲーボルク家に代々受け継がれるゴーレムトルーパーで、ワシの長年の相棒じゃ」
「おー、格好いいー」
クリストファーが自分のゴーレムトルーパー、ジェノバイクを見上げながら言うと、サーシャも同じくジェノバイクを見上げて感心したような声をあげる。その言葉にクリストファーは口元に僅かだが満更でもなさそうな笑みを浮かべる。
「ふん。世辞ならこの模擬戦が終わった後にせい。そら、サーシャの嬢ちゃんも自分のゴーレムトルーパーに乗らんか」
「はーい」
クリストファーに言われてサーシャはドラトーラの元へと向かい、クリストファーもジェノバイクに乗り込もうとするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます