サーシャの異能

「ドラトーラ……。ドランノーガの妹か。言われてみればそうかもしれないな」


 サーシャの言葉にサイが納得したように頷く。


 確かにサイとサーシャは実の兄妹であるし、ドランノーガもドラトーラも同じく生鉄の樹のゴーレムオーブから作り出されたゴーレムトルーパーなので、兄妹であると言っても過言ではなかった。


「……あれ?」


 ドラトーラの機体を見ていたサイがあることに気付いて、ドラトーラの下半身の竜を指差す。


「なぁ? 今気付いたんだけど、ドラトーラって翼がないのか?」


「え? ……ああ、本当ですね。確かに飛行ユニットがありませんね」


「どうやらドラトーラは完全な重装甲の陸戦型のようですね。飛行能力は無いですけど、見たところそれに変わる素敵な機能があると思いますよ?」


 ドラトーラの下半身の竜の背部に翼、飛行ユニットが無いことをサイが指摘するとピオンとヴィヴィアンも今気付いたように言葉を口にする。


「ゴーレムオーブから作られたばかりのゴーレムトルーパーは全て飛行能力があるんじゃないのか?」


 ドランノーガと同じ生鉄の樹のゴーレムオーブから作られたから、ドラトーラにも飛行能力があると思い込んでいたサイがピオンに聞くと、赤紫の髪のホムンクルスの少女は首を横に振って答えた。


「いいえ。ゴーレムトルーパーの機体性能や武装は、ゴーレムオーブに血液を与えた人によって異なりますから、飛行能力がないゴーレムトルーパーが作られてもおかしくはありません」


「そ、そうなのか?」


「はい。むしろ前文明の時代でも最初から飛行能力があるゴーレムトルーパーは珍しかったそうですよ」


 ピオンの言葉に思わず聞き返すサイに今度はヴィヴィアンが声をかけて説明を引き継ぐ。


「前文明の時代では、飛行能力を持たないゴーレムトルーパーは、航空機や空を飛ぶモンスターを吸収して飛行能力を得ていたそうです」


「ですが現代では航空機の類いはなく、空を飛ぶモンスターもこの間戦った蛇のモンスターしか確認されていないようで、飛行能力を得るのは非常に難しいと思われます」


 続けてヒルデとローゼが説明をすると、ピオン達の説明はサイ以外の全員も聞いており、フランベルク三世とバルベルトは、ドランノーガ以外のゴーレムトルーパーが飛行能力を得るのが難しいという話を聞いて若干残念そうな顔をしていた。


「なるほど。そういうことか……」


「でもー、空を飛ばすだけなら何とかなるんじゃない?」


「ん? ああ、確かにお前の『異能』を使えばドラトーラを飛ばすくらいならできるか」


『『…………………………!?』』


 ピオン達の説明に納得した表情となったサイとサーシャの会話に、この場にいる全員が驚いた顔となって二人の兄妹を見る。


「あ、あの……マスター? サーシャさん?」


「どうした、ピオン?」


「何ー?」


「お二人とも、今何て言いました?」


 この場にいる全員を代表してピオンが微かに震える声でサイとサーシャに質問するのだが、当の兄妹は何故そんな質問をされたのか分かっておらず、サイが首を傾げながら答える。


「だからサーシャの『異能』を使えばドラトーラを飛ばすくらいはできるって言ったんだが? サーシャ、見せてやってくれ」


「はーい」


 サイに返事をするとサーシャは自分のゴーレムトルーパーであるドラトーラの元まで近づき、その巨大な脚部に触れる。すると次の瞬間 、彼女の異能が発動してドラトーラの巨体がゆっくりと宙に浮かび上がった。


『…………………………!?』


 宙に浮かび上がったドラトーラの姿に、サイとサーシャを除くこの場にいる全身が驚きで目を見開いた。


「マ、マスター? こ、これは一体……!?」


「あれ? 言ってなかったか? サーシャはな、手で触れている間はどんなに大きくて重いものでも自由に浮かせて動かす『浮遊』の異能が使えるんだ。サーシャがドラトーラに乗っている時は、常にドラトーラに『触れて』いる状態なわけだから空を飛ぶだけなら何とかなるってわけだ」


 ドラトーラを震える手で指差すピオンにサイは何でもないように答えるが、その言葉の内容はホムンクルスの少女の予想を大きく超えるものであった。


「『浮遊』の異能……!? それって固有重力操作能力? マスターの異空間創操能力と同じくらいの激レア異能の?」


「ふーん。私の異能って前文明ではそう呼ばれてたんだー? でもいくら浮かばせる事が出来てもーここから出せないと意味ないんだよねー。だからお兄ちゃん。早くドラトーラ、お兄ちゃんの異能でしまってよー」


「分かったよ」


 サーシャに頼まれて今度はサイがドラトーラの脚部に手で触れる。そして彼の「倉庫」の異能が発動して、ドラトーラの巨体は異空間の中に収納された。


『『…………………………』』


 ピオン達は先程からのサイとサーシャの取った行動の凄さに驚愕の表情を浮かべていた。


 これはつまりサイとサーシャが組めば、空を飛べる上にその巨体に気付かれずに隠密行動がとれるゴーレムトルーパーが二機できるということ。もしこれが実戦、特に奇襲で使われた時の敵軍の被害を正確に予測したピオンは思わず呟いた。


「この兄妹、マジで天下が獲れるんじゃないですか?」

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